東京・台北の2拠点生活――立体造形家&雑貨コレクターの森井ユカさんが、仕事場を台北に移して手に入れたものとは?(後編)
公開日:2020/3/26
森井ユカ
『あたしンち』や『ポケモン』などのマンガキャラクターの立体化や粘土遊びセット「ねんDo!」や無限ネコ製造機「ネコカップ」等の企画、スーパーマーケットマニアとして、また雑貨コレクターとしての著書も多い森井ユカさん。約1年半前に、仕事場を台北に移し、東京、台北の2拠点暮らしの様子を『月イチ台北どローカル日記』(集英社)として刊行。インタビュー後編では、台北グルメの続きと、台湾の出版物の魅力についてうかがった。
もりい・ゆか●東京都生まれ。桑沢デザイン研究所卒業、東京造形大学大学院修了。立体造形家にして雑貨コレクター。YUKA DESIGN代表。粘土を使ったキャラクターデザイン、粘土遊びセット「ねんDo!」や無限ネコ製造機「ネコカップ」等を企画。著書に「スーパーマーケットマニア」シリーズ、『10日暮らし、特濃シンガポール』『旅と雑貨とデザインと』『IKEAマニアック』『旅のアイデアノート』など。2018年10月、台北に仕事場を開設。@yukayuka
台湾グルメは、いま“とろとろ系”が流行り
──前編では、森井さんがハマっている台北グルメとして、番茄牛肉麺(トマト牛肉麺)、蛋黄芋餅(芋団子)、四神湯(モツの薬膳スープ)をあげていただきましたが、『月イチ台北どローカル日記』には、この3つ以外にも、美味しそうな食べ物の話と写真がいっぱい載っていますね。チーズとろとろのサンドイッチ、あれは手がチーズまみれにならないようにビニールの手袋がついているんですね。
森井 はい。チーズがとろとろで半熟卵もとろとろ、ポークハムも入っていて、見た通りの味ですね。台北では流行りなんです、こういうとろとろ系が。台湾はパンが美味しいので、何を挟んでもいけますね。
──このピーナッツバター入りのベーコンチーズバーガーもボリュームがすごい。ピーナッツバターがたっぷりで、むっちゃ濃厚なイメージです。
森井 私にとっては、これも甘じょっぱくて美味しいカテゴリーで。どうしても食べたくなるときが2~3カ月に一度ありますね。
──本当に、台北に胃袋をがっちりつかまれていますね。
森井 はい。それはもう思った以上に。場所のことでいえば、部屋に籠もってずっと作業している日もわりと多いので、そういうときの備蓄のためにも走ってすぐに食料を調達できるところがいいなと思って。スーパーマーケットも夜中の2時まで開いているし、コンビニも近くにあるので便利ですね。
──まったく不自由なく、お仕事されてるようですね。
森井 私自身はそうですね。クライアントさんにも極力ご迷惑お掛けしないように、いろいろ考えてはいるんですけど。できれば、毎月台北に行きたいんですが、2月と8月だけは講師をしている学校の授業の関係で出かけること自体が難しくて。2月は月末に卒業制作展があるので、生徒たちが作品を仕上げられるように毎日連絡を取り合っていますし、8月は一般の方に向けた講座が2週間続けてあるんです。
書籍や印刷物などのパブリックデザインもすばらしい
──台北のカフェでお茶とともに供される和菓子のデザインを頼まれたそうですね。森井さんが手掛けられたキャラクターの台湾展開のお仕事も依頼されたとか。台北でのお仕事は増えていく感じなんですか?
森井 微弱に、という感じですね。日本の仕事を台北に来てやってるのが現状で、積極的に営業はしてないんです。もちろん、増えていったら嬉しいし、お話をいただけたら喜んでやらせていただきます!
──台湾の大きな魅力として、書籍のデザインが秀逸だと書かれていますね。台湾版の『BIG ISSUE』もスタイリッシュだと絶賛されていて。
森井 書籍や印刷物などのパブリックデザインが本当にすばらしいんです。台湾の人はすごく本が好きで、空港にもラウンジみたいなところに本棚がたくさんあって、誰でも利用できるようになっているんです。
──台北には誠品書店という大型書店がありますね。私も台北に行くと必ず訪れるのですが、本以外にもいろいろなものが売っていて、空間としてもとても洗練されているなと。森井さんはどんな書店に行かれるんですか?
森井 私が台北でいちばん好きなのは、漢聲巷門市(ハンシェンシャンメンシー)という書店です。出版社でもあり小さな書店でもあって、ここの本は誠品書店でも売っています。本当にすばらしいんですよ。個人的には世界一だと。造本も情報量も取材力も郡を抜いている。毎回、中華文化の中で何か一つにテーマを絞って、何年も取材して制作するんです。写真にある「虎」と書かれた本は、中華文化の中に存在するあらゆる「虎」について書かれていて。たとえば、民芸品の虎、水墨画の虎、造形物の虎とか。電話帳みたいに厚くて、造本も凝っているのですが、1万円もしない。情報の密度を考えると安いくらい。翻訳出版もしていて、そこで出た利益をこういう本に回しているみたいですが、やりくりは厳しいようで。部外者なので何も言えませんが、あまりにすばらしい仕事をしているので、国が支援してあげればいいのにと思っています。
──その書店の出版物に惚れ込んでいますね。
森井 台北に行く人には必ずお薦めしていて「もし台北に3時間しか居られなかったとしたら何も食べなくてもいいから、この書店だけは行ってみて! ここに台湾の全てがあるから」と、これまで何人も送り込んでいます。行かれた方もみなさん満足してくださって、3~4万円も買い込んだ人もいました。
──そこまでおっしゃると、私もすごく行きたくなりました。次回の台北旅行の際は、ぜひ行ってみます。
森井 ぜひ! 本当に素敵な書店なので。絶対後悔させません!
──先日、出演されたラジオで、「少し落ち着いたら、台北からまた違うところに移ることも考えている」と、おっしゃっていましたね。
森井 具体的に考えているわけでないんですが、これまでだいたい4~5年おきに仕事場を変えているので、そのくらいしたら、ムズムズしてくるんじゃないかと。台北の中で移るとか、台南に行くとか。まあ、いつかヨーロッパに拠点が欲しいなと思っているので、ジリジリ西に行くのもありかな、とか。ただ、情けないんですが、私、英語があまり得意じゃなくて。香港に部屋を借りていたときに北京語を集中的に勉強して、こちらはわりと身体に馴染むので、西に行くとはいえ、これからも北京語を使えるといいなとは思っています。
──「言葉」ということでは、事務所の大家さんが、森井さんが店子になられたら、日本語を勉強し始めたとか。
森井 そうなんです。私のほうがもっと本腰を入れて勉強しなきゃいけないんですが、サボっているうちに大家さんが日本語修得に務めてくださって。正確には大家さんの息子さんなんですが、日本語の家庭教師を呼んで勉強している。本当に頭が下がります。連絡は、最初からLINEでやり取りをしていたんですが、だんだん彼の日本語率が高くなって、かんたんなことは日本語でやり取りできる感じに。
──私も台北に行ったときに感じたのですが、日本語を話せる方が思った以上に多くて驚きました。
森井 でも、この状況に甘えちゃいけないんです。言語は文化を知る重要なファクターなので、北京語はしっかり勉強したいと思っています。あるとき台湾人の友人に「親切にされていい気になっている日本人が多い」と言われて。彼女はなんでもズバズバと言ってくれる人で、それで関係が悪くなるということはないんですが……。私にもちょっと心あたりがありましたし、実際、現場も見ましたし……、横柄に日本語しか使わない日本人もいるんですよね。そうした状況を自覚しなきゃいけないと思っています。
──台北と日本を行き来する生活を1年以上経験されて、旅行者ではなく生活者として、そこに身を置くことでさまざまな発見や出会いがあったと思うのですが、今後やりたいこと、もっと深めたいと思うことがあれば教えてください。
森井 台湾のお笑いライブに行ったことを本に書きましたが、私、もともとサブカルが大好きで、日本にまだあまり伝わっていない台湾のサブカルをもっと深く知りたいと思ってまして、その一つがお笑いだったんです。昨日たまたま台湾に詳しい人に会ったんですが、いま台湾のインディーズのプロレスが面白いという話を聞きまして。日本の90年代あたりのプロレスを踏襲しているらしく、各町に小さい団体があって不定期に試合をしていると。私、それを聞いただけで、ウズウズしてしまって。何かそういうことにちょっとずつ深入りしていきたいなと思っています。
──そんなことになってるんですね。プロレス好きとしては気になります。ほかにも注目されていることはありますか?
森井 そうそう、台湾人の落語家がいるんです。日本の落語を北京語と日本語でやっておられるんですが、その方がとてもすばらしくて。台北で活動されていて、たまに日本にも来られるようで。あまり宣伝されていないし、紹介される機会も少ないので、日本の方にも知っていただきたい。こんな方々がまだまだいらっしゃると思いますので、掘り下げてご紹介できたらと。
──楽しいお話、ありがとうございました!
インタビュー・対談カテゴリーの最新記事
今月のダ・ヴィンチ
ダ・ヴィンチ 2025年5月号 BLとKISS/『薬屋のひとりごと』が秘めた謎
特集1言葉よりも雄弁に──多彩な表現に溺れる BLとKISS/特集2 TVアニメ第2期2クール目放送開始! 『薬屋のひとりごと』が秘めた謎 他...
2025年4月4日発売 価格 880円
人気記事
人気記事をもっとみる
新着記事
-
連載
ヒロインの名を聞けば転生した物語がわかるかも。破滅ルート回避のため情報収集/邪魔者のようですが、王子の昼食は私が作るようです③
-
連載
毒親のせいで人間不信に。叔父の家に引き取られ、女子大生は引きこもり生活を送る/夜の檸檬にリクエスト1②
-
レビュー
25歳、身長133cm。 幼い容姿ゆえの生きづらさを抱えた女性は「見た目に縛られた社会」でどう生きるのか【書評】
-
連載
睡眠売買で生きていける! と喜ぶ一方、妹や友人が一生懸命生きる姿を自分と比べてしまい…/おやすみストレイシープ③
-
連載
最強の魔女に美少女が弟子入り志願! はたしてその正体は!?/スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました⑨
今日のオススメ
-
レビュー
2度目の人生は復讐のために。夫に裏切られ無実の罪で処刑されたヒロインの華麗なる復讐劇【書評】
PR -
レビュー
「中華おこわ風のキーマ」に「こんにゃくのキーマ」も。「キーマカレーだけで100種類」のレシピ本は、簡単&激ウマ料理の宝庫だった【書評】
-
レビュー
「賢者の石」を作った人は実在した!? ハリー・ポッター好きな“マグル”必見! 93歳の著者による“最後の魔法授業”【書評】
-
レビュー
『東京喰種トーキョーグール』『超人X』の石田スイによる特別読切2作品が収録! 人気の少年歌劇シミュレーションゲームの前日譚を描いたコミック『ジャックジャンヌ FOLIAGE 〜アンバー・オニキス〜』
PR -
レビュー
「夫のお金=家のお金=妻のお金」──その考え、危険かも!すべての妻の人生を救う、お金事情最新版『妻のお金 新ルール』【書評】
PR
電子書店コミック売上ランキング
-
Amazonコミック売上トップ3
更新:2025/4/20 23:30-
1
片田舎のおっさん、剣聖になる~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~ 7 (ヤングチャンピオン・コミックス)
-
2
シャングリラ・フロンティア(22) ~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~ (週刊少年マガジンコミックス)
-
3
金色のガッシュ!! 2【単話版】 Page 30
-
-
楽天Koboコミック売上トップ3
更新:2025/4/20 23:00 楽天ランキングの続きはこちら