野性爆弾・くっきー!「自分の才能が怖いです」絵・文・音楽のすべてを手がけた異色絵本が全人類を生きやすくする理由を聞く

文芸・カルチャー

公開日:2021/1/6

野性爆弾・くっきー!

 芸人としてだけでなく、アーティストとしてもますます注目を集める野性爆弾・くっきー!さん。アート展「超くっきーランド」は総来場者数55万人を記録、世界最大の美術市場「Artexpo New York」では作品5点が約1100万円で売れるなど国内外で高く評価されている彼が、2020年11月、5年ぶりとなる絵本『口だけ紳士と6つの太陽』(ヨシモトブックス)を上梓した。

“大人も楽しめる絵本”として刊行された本作は、くっきー!さん描き下ろしの絵と、ロリータ界のカリスマ・青木美沙子さんの写真を融合させるという、斬新な手法で制作。さらに付属のQRコードから、くっきー!さん本人による読み聞かせ音声や、彼が本作のために作詞・作曲・歌唱した音楽がダウンロードできるという、くっきー!さんの才能を味わい尽くせる一作に仕上がっている。

 さまざまな芸術が盛り込まれたこの作品、制作のきっかけは? 次々と成果を挙げるくっきー!さんの、バイタリティの源とは? お話をうかがった。

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物語、絵、音楽。すべてをみずから手がけたこの絵本は、“紙の上のミュージカル”

野性爆弾・くっきー!

──不思議な世界観、見たことのない生きものが登場するストーリー、絵と写真を組み合わせた表現など、くっきー!さんのセンスが惜しみなく発揮された絵本ですね。表紙ひとつを取っても、かなりのインパクトがあります。

くっきー!さん(以下、くっきー!) ありがとうございます。思惑どおりです(笑)。ずっと「写真と絵を混ぜてみたい」と思ってたところに、タイミングよく「本を出しませんか」っていう話が来たんですよ。写真部分にご出演いただいたのは、青木美沙子先生。青木先生はね、何回か仕事をご一緒させてもろうてるんです。抜群にかわいいし、世界観もぴったりで、お願いできてよかったですね。

──この絵本に使われている絵は、どのくらいの時間をかけて描かれたのですか。

くっきー! あんまり時間かかってないんですよ、締め切りに追われてたので……。僕、前もって準備して、こまめにやっとくってことができないんです。ギリギリにならんと動かれへん。「1枚に3カ月くらいかけて描いてます!」って言えたらいいんでしょうけど、実際は3枚くらいまとめて、4~5時間で一気に描くんですよ。4時間を3枚で割ったら、1枚あたり1時間ちょい。でも1時間じゃ、値打ちない感じしません? 4年と1時間ちょいかけて描いたって、そう書いといてください(笑)。

──絵や文だけでなく、読み聞かせ音声やBGM、作詞や歌唱まで、すべてくっきー!さんが担当されているんですね。

くっきー! ほんまのことを言うたら、ミュージカルをやりたかったんですよ。ところが舞台でやるミュージカルは、コスト的に高くつく。でも、紙の上でならできるんちゃうかなと思ったのがこの絵本です。

「絵本に音をつける」っていうのは僕の発案で、外注するくらいやったら、ぜんぶ自分で作ったほうがラクかなと思ったんですよね。幸い、曲を作る才能とか能力もあったので……もうね、自分の才能が怖いですよ(笑)。歌がついているのは絵本の最後ですが、お話のラストは、やっぱりエンドロールが欲しいじゃないですか。歌を聴きながら、自分の中で登場人物やNGシーンとかを流してくれはったらと思います。

野性爆弾・くっきー!

──多才なくっきー!さんに憧れます。やりたいと思うことがあっても、なかなか実行できない人たちにアドバイスがあれば。

くっきー! 「やりたいな」と思うてんのに、できへんってこと? そんなん、アドバイスもクソもないですよ。人間、死んだら骨クズになって、小っちゃい壺に入れられてまうんですよ? やりたいことは、身のあるうちにやっておかないと。本とか音楽は、その人が生きてた証になりますよね。死んでゼロになるよりは、なんか残ってるほうがいい。僕も生きてた証、残したいなあ。

 僕ね、歴史の教科書とか、卒業文集とかのケツに「元号が平成になった」「千代の富士優勝」みたいなできごとが載ってる年表があるじゃないですか、あれに載りたいんですよ。「くっきー! 死去」っていうのが載るくらい、偉大になりたい。エディ・マーフィーみたいな存在を目指したいですね。

眠ってエンジンを止めないよう、常にアイドリング状態にしておきたい

野性爆弾・くっきー!

──絵本の終盤には、読み手が自分の人生を振り返るような問いかけもあります。物語のテーマは、どのように決めたのですか?

くっきー! 芸人って、世の中の流れを見て動きますからね。テーマは、“世間の感じ”から見つけ出してるんじゃないでしょうか。この絵本も、自分の気持ちや、共感できる教訓を描いたんじゃなくて、「こういうことを世の中に問いかけてみたい」「こういうことが自分に刺さるかどうか、自分を試してみたい」と思って描きました。ネタをやるときも、こういったことは常に試しています。

──以前、YouTubeで拝見した動画で、「音と笑いと絵を一本化したい」というようなことをおっしゃっていました。今回の絵本は、まさにそのとおりのものだと感じたのですが。

くっきー! あ、有言実行だ。夢、叶いました(笑)。いやあ、夢って、知らないうちに叶ってるものですね。「芸人になる」ということもひとつの夢だったので、今もまだ夢の途中にいる感じです……みたいなことを、こないだ、ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトさんが言うてはりました(笑)。「バンドをやるのが夢だったから、僕は今も夢がずっと叶ってる状態だ」って。いい言葉ですよね。使わせていただきました(笑)。

──お笑いの道は、どのようなお気持ちから目指されたのですか?

くっきー! これもまた、芸人になるつもりもなく、ツレに誘われて、楽しいからなんとなく続けてたら今……という感じなんです。あんまり先のことは考えないんですよね。NSC(吉本総合芸能学院)の先生は、「10年後、20年後の姿を想像しなさい」って言いますけど、あんまり考えたことないんですよ。もともと「人を笑わせるのが好き」な側ではあったと思いますけど。

──さまざまなジャンルで成果を残していらっしゃること、本当にすごいと思います。そうやって、いろいろな方向にアンテナをはっておくための工夫はありますか?

くっきー! ないです(笑)。興味のないもんは、まったく興味ないんですよ。自分で興味が持てなければ、他人に「これ、おもろいで」って勧められた映画なんて絶対に見ない。本当に興味のあるものにしか踏み込まないから、無駄な時間のない生き方だとは思いますけどね。

野性爆弾・くっきー!

──いくつものジャンルに踏み込む、そのバイタリティを保つ秘訣は何でしょう?

くっきー! あんまり寝ないようにしてます。寝たらエンジンが止まる気がするので、常にアイドリング状態にしておきたい。布団には入りますが、寝落ちするまで寝ないし、落ちても一瞬で起きます。

 このあいだテレビで、2日間ずっと起き続けて2日間ずっと寝続けるという、100歳超えのばあちゃんを見たんですよ。そのばあちゃん、寝てるときにまんじゅうを口に近づけたら、寝ながらそれを食うんです。僕も今、たぶんそういう状態なんですよね。寝るまで起きてて、落ちたときに寝る。そうやって、起きた瞬間からずっと考え続けてるんだと思います。

──いろいろな活動を並行していらっしゃいますが、頭の中を整理しておくための技などがあれば教えてください。

くっきー! 「コレが終わったらアレをして、ソレもせなあかん」って思ってるから、頭パンパンになるんじゃないですか? 僕は今、この取材のことしか考えてません。いつもその瞬間だけに、MAXの力をつぎ込んでる。ある意味、ラクでいいですよ。考えて行動できるのも素晴らしいと思いますけど、それが自分を苦しめることってあるでしょう? 何も考えずに生きていくすべを身につけてみてはどうでしょうね。

周囲の反応が気になる人は、「いつも心にメリケンサックを」

野性爆弾・くっきー!

──今、興味を惹かれているものは何ですか?

くっきー! なんやろなあ……小惑星探査機の「はやぶさ2」が、小惑星リュウグウのサンプルを持って帰ってきたことですかね。宇宙、すごい好きです。今回の絵本の次回作や続編があれば、地球が一致団結して、宇宙の見えざる敵と戦う話にしたいですね。でも、それもわかんないな。明日の僕に取材してもらったら、また違うことを考えてるかもしれないし。そうやって僕のこと、ずっと見とってくださいよ(笑)。

──(笑)。「この人はこのネタ、このジャンル」と決まっている芸人さんも多い中で、「この人、次は何を見せてくれるのかな?」と思える人は、あまりいない気がします。

くっきー! やりたいことがあったら、迷いなくすぐやっちゃうというだけなんですけどね。速く走る、高く跳ぶとかはDNAの限界があると思うんですけど、絵を描く、音楽を作るみたいなことは、本当は、やろうと思うたら誰でもできるんですよ。でも、日本人は照れ屋さんが多いですからね。そこを一歩、踏み出すことができれば、みんなもいけるんじゃないですか?

 もしかすると、みんな本来ならもっといけるはずなのに、自分で枠を決めちゃってるのかもしれませんね。「殻を破る」ってよう言いますけど、殻の中から外を見て、「あの人は殻を破っていてすごい、私はできない」みたいに思ってる。殻を破ったら、新鮮な酸素も吸えるし、きれいな空も見えるのにね。もったいないですよ。

 僕はもう、生まれた瞬間には、殻、破ってるタイプですからね。僕、生まれるときに、頭が出たくらいのところで、すごい暴れまわったらしいんですよ。僕が出てきたあとは、母の恥骨が砕けてたって。その時点で、すでに逸脱したものがあったんですねぇ(笑)。

──なるほど、気力が湧いてきました(笑)。とはいえ、周囲の反応が気になることもあるのですが。

くっきー! そうですよね、みんな、まわりの反応が怖いんですよね。僕は、まわりのことは基本的にどうでもいいと思ってるので、あんまり気にしません。物事の性質にもよると思いますけど、自分と家族、親しい人以外は、しゃべる肉の塊だと思うてたらええんですよ。心のない生きものやと思うたらラクやし、気にしててもしょうがない。そんなのに認めてもらおうとせずに、自分が認めるものを提出していったらいいんじゃないですか。

 僕の絵も、自分がおもろいと思うから描いてる絵なので、まわりがどれだけとやかく言おうが、「自分はおもろいと思うてる」という、それだけでいい。それで、僕と同じように「おもろい」って言うてくれる人がいたら、「わあ、ありがとう」と思うだけです。自分が描きたい絵を描く、それが人に評価されてるんですよ。きっとね。

 それでもまわりが気になる人は、メリケンサックでも持っとったらええんちゃいます? ほんまに殴らんでも、「いつでも殴ったれるで」みたいな気持ちになるでしょ。坂田利夫師匠もね、カバンにメリケンサックを入れてたそうですよ。多少の悪口なんて、「コイツ、万が一もうワンランク上のこと言うてきたら、どついたるぞ」ってくらいの気持ちでおれたら、屁でもなくなると思います。「いつも心にメリケンサックを」ですね。

──この絵本は、どういう人に読んでもらいたいと思いますか。

くっきー! 引きこもってる中年男性とか、陽に当たらない生活をおくってる人……あ、やっぱり全員ですね、全員。明るくしてても、気持ちは引きこもってる人はいますから。この絵本を読んで、殻の外に出たい気持ちに気づいたら、そこからの生き方を変えることだってできます。思うがままに生きましょうよ。

取材・文=三田ゆき 写真=島本絵梨佳

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