前代未聞の総合エンタテインメント「BATTLE OF TOKYO」とはーーEXILE HIROインタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2021/2/27

 前代未聞の総合エンタテインメント・BATTLE OF TOKYO(以下、BOT)はどのように着想され、どれほどのスケールを伴ったプロジェクトなのか? BOTプロジェクトを統括する、LDHのチーフ・クリエイティブ・オフィサーEXILE HIROに話を聞いた。

 2016年のGENERATIONSのライブツアーのテーマと演出を決める際に、メンバーたちを架空の世界の怪盗団にキャラクター化してみようと考え、ストーリーを作り3DCGの映像を製作してライブのオープニングや幕間で表現しました。

 今までも、EXILE TRIBEのライブはテーマやコンセプトから様々なストーリーを作って表現してきたのですが、この時のGENERATIONSのライブでは、ライブだけで終わらない、ずっと繋がっていく新たなストーリーを創造したいなと。

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 完成した映像を観た時にすごく可能性を感じましたし、GENERATIONSだけでなくJr. EXILEのメンバーみんなをキャラクター化して、アーティストとしてのリアルの世界とアバターとしてのバーチャルな世界が連動した大きなストーリーを作ってみようと思ったことがBOTに繋がりました。

 昔から、LDHで発信される全てのリアルなエンタテインメントを、バーチャルな世界に落とし込みたいという想いはとても強かったですし、個人的に「誰もやっていない」とか「世界初」ということへの取り組みが大好きなんです(笑)。

 今回のBOTプロジェクトが、今後のLDHのエンタテインメントの在り方を表現する第一歩になってくれると思っています。

 コンピレーションアルバム『BATTLE OF TOKYO 〜ENTER THE Jr. EXILE〜』から、今回の再始動まで1年半近く時間が空いたのは、コロナの影響もありましたが、Jr. EXILEのメンバー38人のキャラクター化やストーリーの構築、3DCGモデルの製作、そして新たなミュージックビデオの企画から4曲分を製作するのに相当な時間をかけているからです。それでもこのクオリティのものをこの早さで仕上げられたのは、BOTに関わってくれているスタッフの皆さんが、それぞれの分野で一流の方々であり、製作もクラフターさんだったからですね。

 また、BOTには「HiGH&LOW」シリーズ(以下、「ハイロー」)で学んだことがいろいろと活かされているんです。

「ハイロー」はLDHらしい、LDHが得意とする手法で様々なエンタテインメントを繋げていく感覚で進めてきました。楽曲、MV、ドラマに映画、そしてドームツアーまでの構想を同時に進めていったプロジェクトなので、普通のドラマや映画の作り方とは全く違うスケジュール感であり、凄い勢いでメディアミックスされ、同時進行だからこそ成り立つ総合エンタテインメントとして進めてきました。

 BOTに関しては、そのスケール感やインパクト、新しいエンタテインメントを創造する感覚は一緒なのですが、ハイローのように同時進行というより、ハイローのようなスケール感の中で一つひとつのエンタテインメントをわかりやすく明確に発信しながら、時間をかけて作っている感じですね。

 今回は東(弘明)監督や脚本の佐藤大さんなど、日本のCG映像やアニメ界の第一線で活躍する方々に立ち上げの段階から集まっていただき、クラフターさんと共にコンセプトアートを描き世界観の設定やストーリーを丁寧に作るところから始めています。

 その過程で月島総記さんと出会い、小説の執筆をお願いすることにもなりました。世界観やストーリーを作っていく上で重視したのは、Jr. EXILEのメンバー38人が自分自身でキャラクターの設定を考えるなど企画に参加してもらうことでした。

 自分で名前を決めたり、細かい設定も自由に考えてもらうことで、キャラクター化したアバターに自分自身を投影できるようになりますし、メンバーの生い立ちや成り立ち、人間関係もBOTの世界観に反映させて、アバターのストーリー自体もリアルなメンバーのストーリーと似せていきたいと思いました。

 また、BOTはこれまでとは違う新たな表現になりますが、メンバーが持っている表現者としての魂に火を付けたい、という思惑もこのプロジェクトにはありました。

 まだスタートしたばかりなんですが、ものすごくいいものができあがっている感触が既にありますね。

 そして、海外進出にも本腰を入れたいと思っています。

 昔から自分たちのエンタテインメントをグローバルマーケットに展開していく準備はしていましたが、ここ3、4年で一番感じた日本の強みはアニメ、ゲーム、アート、マンガやグルメといったカルチャーに世界中の人たちがものすごく興味を持っていると実感したことです。自分たちの音楽に日本のカルチャーをリンクさせるようなコンテンツが作れたら面白いですし、音楽だけでなく日本の強みを一緒に発信することで、より世界中にインパクトを与えていけるエンタテインメントを日本発で作れるのかなと……。

 そんな思いを抱いていたことも、BOTに繋がっています。

 あと、アバターは本人が稼働しなくても様々な展開ができるので、多忙なスケジュールのメンバーを考えると、可能性は広がりますよね。

 また、ライブ活動を引退したメンバーのセカンドキャリアとしても絶対に活躍しますし、LDHにとって、新たなアーティストが増えることに繋がると思います。

 その意味でも全社を挙げて、BOTの可能性に挑戦していきたい。今はJr. EXILEチームを中心にプロジェクトを進めていますが、BOTが一種のプラットフォームになり、アクセスした人はアバター化される、その中から新人が出てくる……、みたいな展開ができたら面白いかもしれない。

 Jr.EXILEのみんなの脂が一番乗り切っている時期に、BOTが社会現象になるくらい盛り上げていきたいと思います。これからのエンタテインメントを考えた時に、デジタルやバーチャルの世界は可能性に満ちているのでBOTは戦略的に10年以上続けていきたいとは思っています。

 2020年はコロナ禍で未発表の公演を含めると、334公演を中止せざるを得ませんでした。ですが同時に、自分たちが進もうとしていた方向性は間違っていなかったんだ、と確信できた年にもなりました。

 これまでのLDHはリアルでのアーティストによるライブというエンタテインメントが柱でしたが、今後はBOTを中心にデジタルテクノロジーを駆使したバーチャルでのエンタテインメントをもうひとつの柱として育てていきたいと考えています。

 とにかく、リアルもバーチャルもLDHのエンタテインメントでファンの皆さんに喜んでいただけるように、これからも精進していきたいですし、LDHのファンで良かったと言ってもらえるように頑張っていきたいと思います。

取材・文:吉田大助
(本記事は『ダ・ヴィンチ』2021年3月号「BATTLE OF TOKYO」特集からの転載です)

■プロフィール
神奈川県出身。1990年にZOOのメンバーとしてデビュー。99 年にJ Soul Brothers を結成し、2001年にEXILEと改名して再始動。パフォーマー兼リーダーとして、EXILE を国民的グループに押し上げる。13年、パフォーマーを勇退。17年からLDH新体制においてLDH WORLDのチーフ・クリエイティブ・オフィサーとしてクリエイティブを統括。