乃木坂46・山崎怜奈、好きだから分かる歴史の醍醐味「自分の周りにも起こりうる」

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公開日:2021/5/9

歴史のじかん

 乃木坂46の2期生・山崎怜奈による初の著書『歴史のじかん』(幻冬舎)は、大の“歴女”として知られる彼女の興味を存分に詰め込んだ1冊だ。

 元になったのは、2019年まで放送されていた『乃木坂46山崎怜奈 歴史のじかん』(ひかりTV・dTVチャンネル)。本書では、歴史に精通する専門家と山崎による座談パートを、全50回の放送分から14本に厳選して再構成。さらに、偉人たちの史実と彼女の抱いた「人や社会に対する根本的な疑問」をかけ合わせた、完全書き下ろしのオリジナルコラムも収録されている。

 ひとたびページをめくると、受験勉強から離れた“大人向け”の歴史書という印象も受ける本書。歴史のできごとは「自分の周りにも起こりうる」と持論を展開する山崎に、著書執筆の裏側を聞いた。

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(取材・文=カネコシュウヘイ 撮影=花村謙太朗)

徳川十五代将軍はアイドルプロデューサー“ザキP”目線で

――初の著書『歴史のじかん』では、完全書き下ろしのオリジナルコラムが14本収録されています。直筆のあとがきでは「数ヶ月前の自分が書いた文章が、今は全くしっくり来ない、なんて事もありました」と執筆の苦労も明かしていますが、いつからどのように書き上げていったのでしょうか?

山崎怜奈(以下、山崎):原稿を書き始めたのは、昨年6月の半ば頃でした。コラムは、偉人たちの史実と現代にも通じるテーマを「かけ算」しようと決めて。人物自体の考察となると、歴史が好きな方にしか届かないと思ったんです。それに、史実を伝えるなら専門家の先生のほうが語るのは抜群に上手いだろうし、私は、歴史の専門家ではないから難しいだろうと思って。だから、偉人たちの経験を「今を生きている私だったらどう置き換えるか」と考えながら、コラムをまとめていきました。

――解説書にとどまらないよう工夫した、と。

山崎:専門書ではないので。先生たちとの座談や独学で学んだ知識を抽象化して、自分ごとに置き換えながら転用していきました。

――例えば、江戸時代に日本地図を描いた伊能忠敬については、巷でよくある「好きなことを仕事に」論争をぶつけるなど、視点もだいぶユニークです。とはいえ、各コラムのテーマ設定はけっこう苦労しましたか?

山崎:すんなり決まったものあれば、悩んだものもありました。比較的、早く決まったのは太宰治と徳川十五代将軍ですね。この2つは、真っ先に原稿を提出できました。太宰治は、彼の生涯を考えても「恋愛」しかないと思ったので。真っ向から恋と向き合いました。

 一方の徳川十五代将軍は、座談パートのもとになった番組企画のあとがきとしてまとめました。元々、「徳川家の将軍たち“江戸坂15”の総選挙を見せたい」と提案して、そのままやっていたんですよ。専門家の先生と、ビジュアルエース候補は慶喜で、キャプテン候補は〇〇みたいに議論して(笑)。すでに彼らの姿が見えていたから、ツアーを回るならどうするとか、個人仕事はこれが向いているとか、アイドルプロデューサー“ザキP”目線で気楽に考えられました。

――歴史上の人物に対して、昔から妄想することもあったんですか?

山崎:学生時代から、けっこう考えていました。教科書の情報には感情が乗っていないので、偉人たちが喧嘩していたり仲が悪かったりしたのは事実だったのかと想像していました。だとしたら、どんな愚痴を吐くのかも考えていましたね。彼らがもし、ツイッターのアカウントを持っていたら何を言うのかと想像してみたり(笑)。相手を言い負かすのが上手な偉人だとすれば、人によって違うだろうなと思っていました。

――発想が豊かですね(笑)。かたや、コラムを書き上げるのに苦労した偉人は?

山崎:塙保己一(江戸時代に活躍した全盲の国学者)の「見えないこと」に関するコラムでした。盲目を実体験することはできないし、知ったかぶるのも違うと思ったんです。だから、テーマの設定にも時間がかかりましたし、何を伝えるべきかはけっこう頭を悩ませましたね。

 でも、彼のキーポイントは、成し遂げてきた素晴らしい功績だけではなく、その人柄にあると思って。例えば、専門家の先生から彼について「目利きというのは不自由なものだな」とお弟子さんに笑いながら言ったエピソードを聞いたんですが、つまり、目が見えるのも辛いというユーモアを込めた皮肉なんです。その話を思い出して“見えているものだけがすべてではない”と気が付いてからは、だいぶスムーズに筆も進みました。

専門家との座談では聞き手としてのバランスを意識

歴史のじかん

――番組の内容をまとめた座談パートでは、視聴者や読者に代わり山崎さんが疑問を投げかけている印象もありました。放送当時、専門家の先生へお話を伺うときに何を意識していましたか?

山崎:先生方のお話に対する自然なリアクションを大切にしたかったので、事前の準備も工夫していました。例えば、蒲生氏郷(戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した戦国武将)は昔から好きでしたが、収録時点で知っている以上のことはあえて調べないようにしたり。反対に、ほぼ予備知識がなかった偉人については事前に調べたりと、聞き手としてのバランスはけっこう考えていました。

 番組の進行でも、時代ごとの難しい用語が出てきたら意味を聞き直したり、現代に置き換えると「こういう関係性ですよね」と聞き返したり。そうしないと、過去と現在では社会観も異なるので、視聴者の方々にとっては他人ごとになってしまうと思ったんです。私自身も歴史を勉強しながらそう感じる瞬間はあって。過去の本質的な部分だけを抽象化できれば「自分の周りにも起こりうる」と感じてもらえるだろうからと、著書の中でも、あえて今どきの言葉を盛り込んでみました。

――歴史となると、それ自体が難しいと思う人もいそうですし。著書について、他にもアイデアを反映させた部分は?

山崎:先生との対話は話し言葉で進んでいくし、誰かの話を盗み聞きしていたら、ついでに歴史を学べるような本にしたかったのもあって。だから、文章だとまどろっこしく見えそうな部分については、行間を感じてもらえるようにしました。重要箇所も太字にアンダーラインを引いて強調していますが、校正の段階できちんとバランスを見て。教科書や参考書でも「すべてが重要です」と言われると、疲れると思うんです起承転結が分かりやすく伝わるように意識しました。

――山崎さんのこだわりが随所に反映されている、と。書籍の執筆を通して大好きな歴史を見直すきっかけにもなったと思いますが、新たな発見になったと思う内容は?

山崎:オリジナルコラムの中で、千利休(戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した茶人)について「センス」をテーマにまとめるのは楽しかったです。茶道を広めた彼は「センスがいい人」の代表ですが、そもそも、センスって何だろうと思って。日常的にもセンスのいい悪いをよく話題にするけど、彼について学んだことをもとにして、センスの「材料」を分析したのは自分なりの発見でした。

 著書にも書いた3つのセンスの材料は、タレントさんでも「カリスマ」と呼ばれる人たちは網羅していると思いました。自分に当てはまってないものも「まあ、あるっちゃある」と割り切りながら(笑)。最初の一文から「『センス』ほど、曖昧な評価はないと思います」と持論を展開していますが、手前味噌ながら、面白く仕上がったと思うのでぜひ読んでみてほしいです。

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