アニメ、ラノベに登場する珍苗字のルーツがわかる「苗字本」

社会

更新日:2012/11/27

 小鳥遊(たかなし)、千反田(ちたんだ)、五月七日(つゆり)、…。これらは最近のアニメ作品に登場するキャラクターの一風変わっていると思われる苗字だ。ちなみに、小鳥遊は『WORKING!!』(高津カリノ/スクウェア・エニックス/2010年、11年にアニメ化)の主人公・小鳥遊宗太や、現在アニメ放送中の『中二病でも恋がしたい!』(虎虎:著、逢坂望美:イラスト/京都アニメーション)のヒロイン・小鳥遊六花(たかなし・りっか)などがいる。また、千反田は『氷菓』(米澤穂信/角川書店)のヒロイン・千反田える、五月七日は前出『中二病でも恋がしたい!』のアニメ版のみに登場する高校生キャラ・五月七日くみんの苗字である。

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 アニメに限らず、コミック、ライトノベル、ゲーム等の創作世界において、珍しい苗字のキャラクターは過去にさかのぼれば数限りなく登場している。もちろん、『サザエさん』(長谷川町子/朝日新聞社) の「フグタ(無理に漢字にすると河豚田)」のような、いわゆるイメージ優先の語呂合わせが明らかであり、実在する可能性は低いとすぐにわかるものも多いが、冒頭で挙げた例のように、最近ではリアルに実在するかどうかの判断が難しく、ファンの間で話題になることがある。

 そこで、即座に元ネタを追求するのに便利なのが“苗字本”だ。最近出版されたものとしては、『なんでもわかる日本人の名字』(森岡 浩/朝日新聞出版)や、『苗字辞典』(新藤正則/湘南社)、『[家紋と家系]事典 名前からわかる自分の歴史』(丹羽基二/講談社)ほか、分厚い辞典サイズから手軽な文庫、新書サイズに至るまで、様々なものが揃っている。どれも「佐藤」、「田中」といったメジャーな苗字から、少数の珍苗字に至るまで、その歴史的ルーツや発祥地、ものによっては推定人口なども記載されている。

 それによると、小鳥遊の場合は「鷹がいなければ小鳥も安心して遊ぶこともできる」(『なんでもわかる日本人の名字』より引用)ことから「たかなし」と読むのだという。言われてみればなるほど納得がいくが、本当に実在しているとは驚きだ。この苗字は、和歌山県南部に集中しているそうで、『苗字辞典』によると、発祥は信濃。推定人口は30人とされている。

 ところが、次の千反田については上記の本をはじめ、他にもいくつくかチェックしたものの、どこにも掲載されていなかった。『日本苗字大辞典』(丹羽基二/芳文館)という厚さ20センチはある辞典まで調査の手を伸ばしたが、ここにもナシ。原作者の米澤穂信が自身のtwitterにて「自作の姓で実在しない」とつぶやいていたことを知ったのは、その後のことだった。漢数字に“反田”がつく苗字は、一反田から順番に九反田まですべて揃っており、さらに百反田も存在していながら“千”がないというのは不思議だ。

 また、五月七日は同じ「つゆり」と読む“栗花落”が掲載されていることが多く、「栗の花が落ちるころに梅雨入りする」ということ起源になっている。五月七日は新暦にすると6月中~下旬あたりになるため、同じ由来であると考えられる。ちなみに、『日本苗字大辞典』には掲載されていたので、実在しているようだ。

 それにしても、このような“苗字本”のページをめくっていると、まだまだ聞き覚えがない珍苗字が多い。その中には、小鳥遊と考え方が似ている「月見里(“やまなし”と読む。月を見るには山がない方がいいという意味合い)」や、五月七日のような月日を示すものとして「四月一日(“わたぬき”と読む。暖かい季節となり着物の綿を抜く頃という意味合い)」など、「いずれはどこかの作品に出てきそうだ!」と期待したくなるものも少なくない。

 そのほとんどはムダ知識として記憶から消えていってしまうのだろうが、一度読み出すと思いのほかハマってしまう苗字本。日本史の勉強という言い訳にもなるし、夜の長い今の季節には娯楽としても丁度いいかもしれない。

文=キビタキビオ