本の“部数”ってどうやって決まるの?

業界・企業

2013/6/12

 いま、『重版出来!』松田奈緒子/小学館)というマンガが話題となっている。

 「じゅうはんしゅったい」と読むこの作品は、子どもの頃から柔道一筋で、日本代表にまで登りつめた女子大生の黒沢心が、ケガでオリンピックをあきらめ、心機一転、就職した出版社にて、漫画編集者として奮闘する物語。この作品では、一冊の漫画単行本の誕生に関わる作る人から売る人までのドラマを描いているが、あまり知られていない業界独特のルールや事情なども数多く紹介されており、これが実に生々しく面白いのだ。

 中でも注目したいのが“部決”(印刷部数を決めること)のメカニズム。本の部数は初版時、重版時にそれぞれ決めるものだが、漫画家の印税収入にも直結する非常に大切な数字。ただ、どのようにして決められているのか外からはなかなか見えにくく、当の漫画家すら自分の作品の初版部数がどう決められたのかよく知らないらしい。

 「本の部数ってどうやって決まるの?」

 このシンプルでありながら謎めいた命題に答えるイベント『ツブヤケナイ大学vol.2「漫画家と出版社営業」』が先日開催された。このイベントは、上述した『出版出来!』の著者・松田奈緒子をはじめ、『大東京トイボックス』のうめ・小沢高広、『アバンチュリエ』の森田崇という現役バリバリの漫画家3人が、ゲストである某出版社3社の営業担当3名に“部決”のメカニズムについて直接迫るというもので、微妙に緊迫したムードの中で行われた。

ツブヤケナイ大学vol.2「漫画家と出版社営業

写真左から、うめ・小沢高広、松田奈緒子、森田崇

 「初版部数は市場動向を見て決めることが多いですね。過去の自社タイトルの販売実績や、似たようなジャンルの他社作品の売れ行きを参考にする場合もありますし、漫画誌の連載作品については読者アンケート結果などの判断材料もあります。その他、発売前に書店員さんに読んでもらい感触をヒアリングするなど、“部決”に必要な様々なデータを集め、複数部署の関係者を集めた会議で適正な数を決めています」

 なるほど至極全うな回答が出版社サイドから寄せられた。本やコミックは委託販売なので売れなかったら返品される。このリスクを回避するために、あらゆる方向から検討されるらしい。また、取次会社や書店から部数に対するリクエストが入ることもあり、そうしたところとの折り合いをつけながら決定するのだとか。

 重版時も、書籍のジャンルによって多少異なるものの、特定の書店(いわゆる仕掛け店)に置かれている本がどれだけ売れたかという実測値や、大型書店チェーンや取次会社より提供されるPOSデータから日々動向を調査し、売り逃しをせず、かつ売り残しもしないギリギリの数量を、データをもとにして決定しているという。

 データ重視。ビジネスであれば当然だ。ただそこに作品への愛はあるのだろうか?

 漫画家サイドからの「営業担当者は部決前にその本を読んでいるのか?」という質問に、「もちろん目を通して部決にのぞむ人がほとんどだが、中には冷静な立場で判断したいという考えからあえて読まない人もいる」という答えが返され、会場がどよめくという一幕もあった。また、「部数をめぐって会議中に殴り合いがあるというのは本当か?」といった質問については、「昔は机をバンバン叩いて激しく言い合っているうちに顔を真っ赤にして倒れたりする人もいたけれど、今ではむしろ青白い顔をして戦っている人が多いかも(笑)」という答えもあり、立場は違えど、みな情熱を持って作品を売ろうとしている様子がうかがえた。

 一方、「漫画家自身にもSNSなどを活用して積極的に作品をPRしてもらい、販売促進に協力して欲しい」という営業担当からのリクエストに対し、登壇した漫画家3氏も、今まで営業と売り方について話すという機会はなく、これからはそうしたこともやっていきたいと語った。それこそ『重版出来!』の中で描かれていたように、作家だけじゃなく、編集、営業、宣伝、はたまた書店員といった裏方たちがそれぞれに連携をとりながら一冊の本を押し出していくというスタイルこそが今後ますます重要になっていきそうだ。

写真左から、うめ・小沢高広、松田奈緒子、森田崇

トークセッション終了後、笑顔を見せる漫画家3人

 日頃、なにげなく読んでいる漫画が読者の手に届くまでに、裏側でどのような人間ドラマがあるのか?漫画という商品はどうやって作られるのか?たまにはこんなことを考えてみるのもよいかもしれない。