世界一美しい本を作る男のこだわりが知りたい!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 世界的写真家ロバート・フランクの写真集、ノーベル文学賞作家ギュンター・グラスの小説、デザイナーズブランド・シャネルのカタログなど、数多くの出版を手がけるシュタイデル社。ドイツのゲッティンゲンにあるこの小さな出版社は「世界一美しい本を作る」ことで、世界中の芸術家たちに愛され、数年先まで仕事の予約が詰まっているという。

 その経営者・ゲルハルト・シュタイデル氏の多忙な日々を追ったドキュメンタリー映画『世界一美しい本を作る男―シュタイデルとの旅―』が公開中だ。

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 ドキュメンタリーは、ニューヨーク出身の写真家ジョエル・スタンフェルドの新しい写真集『iDUBAI』の企画から出版までのやりとりを流れの中心に据えつつ、年間200冊を出版するシュタイデルの様々な仕事を追う。

 「“商品”ではなく“作品”を作るつもりで望むこと」という信念を持つシュタイデルは、「量産に向いた判型に内容を当てはめて作れば安価だし楽だが、本の内容に合わせて判型を決めるべき」だと、企画、デザイン、紙の選択、印刷、製本、すべてを自社で行う。

 「ベストセラーを刷って儲かった金で、作りたい本を作ればいい」と、サラリと言うシュタイデルは、クライアントの作品を最も輝かせる本を作るためなら手間暇を惜しまない。

 「クライアントとは直接会って打合せする」──旅はあまり好きではないという彼だが、「2、3ヵ月かかる仕事も4日間で終わる」と、トランクいっぱいに紙や装丁の見本を詰め込んで、クライアントの待つ世界各地へと飛んで行く。

 依頼人である作家や芸術家たちからの注文を聞き、自らの経験と知識、センスをフル活用して出版物についての提案をする。それでいて決して自分の意見を押し付けず、相手の望みが異なるようであれば、即座にそれに応じた代案を提示し、納得の行くまでテスト&トライを続けるのだ。

 そして、シュタイデルは、実在するモノとしての「本」にこだわり続けている。彼は自社を見学に来た人々に呼びかける。展示してある自社の本を手に取って感じて欲しい。大きさ、重さ、紙の手触り、紙の匂い、インクの匂い、本ごとにすべてが異なる。紙の印刷物である「本」には、デジタル書籍では決して得ることのできないものがあるのだと。

 シュタイデルは言う──本は作品の分身である。

 作家と作品へのリスペクトを決して忘れず、世に出す最後の形としての本を共に作ることが、彼の信念でありプライドなのだ。

 「シュタイデル社から出版したい」という作家、「シュタイデル社の本だから取扱いたい」という書店、「シュタイデル社の本だから買いたい」というコレクターまでも存在するという事実が教えてくれるように、ゲルハルト・シュタイデルの志そのものが、今やひとつのブランドと化しているのである。

 最後に、映画のパンフレットから彼の言葉を紹介したい。

「私は遺産を受け継いだ訳でもなく、ゼロから出版社を始めたのですが、それは可能なのです。私の本作りの情熱と足跡に続く勇気ある後継者が沢山でてこられることを心から願います」

 書店で美しい本を見かけたら、出版社の名前を確かめてみてほしい。もし、そこに「Steidl(シュタイデル社)」の文字があったのなら、手に取って触れて、匂いを感じてほしい。

 世界一美しい本を作る男の情熱が、あなたの心に、勇気となって染みこんで行くはずだ。

Joel Sternfeld: iDubai [ハードカバー]
Jonathan Crary (寄稿)、Joel Sternfeld (写真)

■The Little Black Jacket: Chanel’s Classic Revisted [Perfect]
Karl Lagerfeld (著)、 Carine Roitfeld (著)

■映画『世界一美しい本を作る男―シュタイデルとの旅―』公式サイト
http://steidl-movie.com/

文=水陶マコト
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)