いくえみ綾マンガの魅力を徹底解剖! 胸キュン度 ベスト5

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更新日:2014/1/27

  映画『潔く柔く』が26日に公開され、いくえみ作品最大のカギとも言われるのが、「いくえみ男子」と呼ばれる存在ラコ。少女マンガに登場するいわゆる王子様系イケメンではなく現実にいそうな外見とゆるさが魅力の男性キャラクターたち。そんな彼らのコトバが多くの読者をキュンキュンさせるラコ! そこで、今回は、「サイゾーウーマン」や『SPUR』(集英社)でも執筆する少女マンガ研究家の小田真琴さんに「いくえみマンガ」の考察と胸キュン度順にベスト5をセレクトしてもらったラコ~。

小田真琴(おだまこと)●女子マンガ研究家。1977年生まれ。「サイゾーウーマン」にて「女子まんが学入門」を、『SPUR』(集英社)にて「マンガの中の◯◯男子図鑑」を連載中。くらもちふさこ先生を神と崇め、『ガラスの仮面』を人生のバイブルとする。

1位
いくえみ綾の出世作!
Pops (1) (マーガレットコミックス (1437))
Pops (1) (マーガレットコミックス (1437))
  • 著者名:いくえみ 綾
  • 発売元 : 集英社
  • 価格:419円

「いくえみ綾」の名を世に知らしめた出世作。登場するキャラクターすべてが魅力的という奇跡のような作品です。序盤の「原田さん」「三島くん」から始まる二人称の変化が、そのまま2人の関係性の変化と特権性を表す構成は見事というほかありません。三島くんの「影のある女たらし」キャラは、たとえばくらもちふさこ先生の『東京のカサノバ』と読み比べてみるのも面白いかもしれません。

2位
感涙必至のラブストーリー大作!
潔く柔く 1 (マーガレットコミックス)
潔く柔く 1 (マーガレットコミックス)
  • 著者名:いくえみ綾
  • 発売元 : 集英社
  • 価格:421円

映画も絶賛公開中のいくえみ先生史上最長作品です。これまでのいくえみ作品の集大成とでも言うべき大作で、数多くの個性豊かなキャラクターが登場します。周囲でリサーチしたところ、意外にも主役格のロクはあまり人気がなく、梶間、キヨ、古屋あたりが人気でした。意外性あるキヨの趣味(少女マンガ!)や、古屋と千家百加との関係性、百加とカンナの友情などなど、読みどころ満載! しかしほんと自転車に乗りながらメール打つのとか絶対ダメです。

3位
衝撃のリアル・ファンタジー!
トーチソング・エコロジー (1) (バーズコミックス スピカコレクション)
トーチソング・エコロジー (1) (バーズコミックス スピカコレクション)
  • 著者名:いくえみ綾
  • 発売元 : 幻冬舎
  • 価格:669円

自分にしか見えない子ども。自分にしか聞こえない歌声。こいつは一体? 「アタシは与えられなかった命。届かなかった想い。伝えられなかった言葉」ーーいくえみ先生の新境地、大人のファンタジーです。読み進めるうちにあなたにもその歌声が聞こえてくるはず。いまもっともと続きが楽しみなマンガのひとつです。

4位
読めば読むほど中毒に!
I love her (1) (集英社文庫―コミック版)
I love her (1) (集英社文庫―コミック版)
  • 著者名:いくえみ綾
  • 発売元 : 集英社
  • 価格:648円

両親の離婚で引っ越すはめになった女子高生・花。それだけでも散々なのに、新居のお隣さんがどうも怪しい…その男、新堂こそが、実は花の転校先の教師だった! 普段はそっけないくせに、いざとなるとキチンと助けてくれる新堂先生は、王道かつ極上の少女マンガのヒーロー像。その「優しさ」と「そっけなさ」の悪魔のような塩梅に、読めば読むほど中毒になること必至!

5位
連作と短編の名作が詰った作品集
バラ色の明日 完全版 1 (愛蔵版コミックス)
バラ色の明日 完全版 1 (愛蔵版コミックス)
  • 著者名:いくえみ綾
  • 発売元 : 集英社
  • 価格:930円

のちの『潔く柔く』へも通じる連作集です。中でも「エンジェルベイビー」に登場するカブちゃんはイチオシ。犬のようにかわいらしい男子です。カブが恋するナナと、その双子の兄、イチとの少し危ない関係性にもドキドキしてしまいます。シリーズ全体を通じてミステリーやファンタジーの要素も多くあり、実験的な作品も多いいくえみ先生の意欲作です。

いくえみ作品の最大の魅力は、やはりと言うか何と言うか、いま話題の「いくえみ男子」にこそあります。細かい分析は『いくえみ男子ときどき女子』(集英社)に任せるとして、いつも感服してしまうのはその「描くところ」と「描かないところ」の絶妙なさじ加減であります。
 いくえみ先生は男子の「内面」を細かく描写したりはしません。「いくえみ男子」の周囲にはいつも何やら薄い膜のようなものが張り巡らされていて、掴んだと思ってもそれは束の間の幻。それよりもいくえみ先生は男子の何気ないセリフ、ふとした動作にすべての思いを込めて描きます。いくえみ作品において、男子は圧倒的な他者として立ち現れてくるのです。
完全に理解することなど土台無理な存在としての男子。ならば理解できないものは理解できないものとして、そのありのままの姿を愛でようではないか! いくえみ先生はそんなふうに女子たちへと呼びかけているように感じます。そもそも「萌え」という感情は、常に未知の存在に対して生まれいづるものではないでしょうか。
なにしろ多作なもので、みなさん異論はあるかと思われますが、以上がわたしのいくえみ作品ベスト5です。これ以外に短編にも名作が数多く、たとえば『10年も20年も』という作品は、高校生の男女3人の身に起きたひと夏の出来事を、「プール」という舞台装置を効果的に用いながら、鮮やかに描ききった傑作です。残念ながら所収された単行本はすべて絶版のようですが、機会がありましたらぜひ。(小田真琴)