死の泉 / 皆川博子 「柿本優衣」 2013/12/29
公開日:2013/12/29
撮影:山本哲也
二つの傷口をあわせると、一つの血がかよう。
流れる血は川をつくる。
その川の名を“期待”という (本文より)
真紅のビロードが貼られた劇場で、三幕構成の壮麗なオペラを観ているような作品。
この現世では決して見られない、美しい世界にどっぷりと浸かりたい方へお勧めです!
舞台は第二次世界大戦下のレーベンスボルン<生命の泉>。
ナチス・ドイツの優生政策により、当時のドイツは金髪碧眼のアーリア系ドイツ人の増加を強く望んでいました。
レーベンスボルンはドイツ人男性と未婚アーリア系女性との間にできた子供を出産するための施設です。
どこか脆さのある、少女のような美しいヒロイン、マルガレーテ。美しいものをこよなく愛し、去勢歌手に執着する狂気の医師、クラウス・ヴェッセルマン。
金髪碧眼というアーリア的特徴を持っていたためポーランドから誘拐され、ドイツ化を強いられる繊細な少年フランツと、類まれなボーイソプラノを持つエーリヒ。
古く優雅な歌曲を聴いているような第一章、そしてドラマティックなアリアのような復讐劇のはじまり第二章…
幾重もの伏線や仕掛けが複雑に絡み合うこの物語は、どの文章も洗練された美しさで、つい声に出して読みたくなります。
そんな一文一文を堪能したいのと同時に、私は先が気になって仕方がなくて、無我夢中でページを捲りました。
第三幕、と呼びたくなるような終章を興奮と共に読み終え、あとがきを開くと…
最後の仕掛けに思わずアッと驚愕!!