50代男たちが胸を焦がすリアルな婚外恋愛事情「いまは、家庭のある男女の恋愛のほうが圧倒的に多い」

恋愛・結婚

更新日:2014/12/13

   

 10年ほど前から「恋をしたい」という男が増えてきた―そう語るのは、亀山早苗さん。恋愛、特に不倫の恋におぼれる男女を見守りつづけ、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』(ともに新潮文庫)、『恋が終わって家庭に帰るとき』(WAVE出版)など、著書も多数あるノンフィクション作家だ。道ならぬ恋ともいわれる不倫だが、亀山さんは否定も肯定もしない。ただ彼ら、彼女らの声に耳を傾け、恋に喜び恋に苦悩する姿を淡々と写しとってきた。

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 今回、リアルな恋物語の主人公に選ばれたのは、50代の男性たちだ。恋愛願望を抱き、実際に女性と出会って、恋を謳歌する。彼らは驚くほど身勝手で、不器用で、そしてピュアで切ない。亀山さんにとっては同世代でもある“50男”たちの恋愛事情をうかがう。

―本書に出てくる恋愛は、すべて不倫ですね。

亀山早苗さん(以下、亀)「いまは不倫じゃなくて“婚外恋愛”という人のほうが多いですよね」

―ことばの違いだけではないのですか?

亀「かつて不倫といわれていたものは、家庭のある男が若い独身女性と恋愛をするのが主流でした。でもいまは、お互いに家庭のある男女の恋愛のほうが圧倒的に多いんですよ。それも同世代同士で。以前から、“自分たちがしているのは、不倫じゃなくて恋愛です!”と言っていた人たちにとっては、なんとも都合のいいことばが出てきたって感じですよね。私たちアラフィフは、若いころに“恋ってすばらしい!”という恋愛至上主義の洗礼を受けた世代だから、特に魅力的に響くのかもしれません」

―とはいっても、本書に出てくる男性たちはそれほど恋愛経験が豊富そうではありませんが…。

亀「20代のうちにそれなりに恋愛をし、30歳までには結婚する。当時は“結婚してこそ一人前”と思われていたから、だいたいの人がこの流れに乗りました。でもそれって、もう30年近く前のことでしょ。恋愛の高揚感も切なさも忘れちゃっている。だから50歳前後でふたたび出会った恋愛がすごく劇的に思えるし、それゆえにのめり込むんです」

―なぜ恋愛にハマるのが“50歳”というタイミングなのでしょうか?

亀「50歳の壁って、とても大きいんですよ。私は長らく、女性にとって大きな壁だと思っていましたが、男性にとっても同じだったようです。定年までのカウントダウンを意識するようになり、そのときまでに自分がどのくらいのポジションになれるかは、もうだいたい想像がつく。体力も落ちはじめる。そして家にいたところで子どもからも妻からも相手にされない。家のなかに居場所がない…。味方がほしいんですよ」

―妻は味方ではないんですね。

亀「違いますね(笑)。敵でもないんですよ。一緒に生活を営む共同体。でも、いまのアラフィフ女性って元気で社交的だから、そんなに夫を構っていられません。だから彼らは取り残されている気がするんです。承認欲求を満たしたい。女性は自分がいまいる場所で“女”として認めてもらいたいという欲求があるけれど、男性の場合は存在まるごとを承認してほしい。50歳の男性って、誰からも褒められないでしょ。仕事で家庭で揺らぐ時期だからこそ、誰かに受け入れられ、心を通じあわせたいんです」

 そんなとき職場で、同窓会で、あるいは趣味の習い事で恋する相手と出会う50男たち。堅実で慎重に人生を歩んできた彼らが、みるまに恋に飲み込まれていく。しかもそのシチュエーションが、「妻の部下と不倫」「女性の家で過ごしているときに、単身赴任中の夫が突然帰宅して鉢合わせ」「互いの配偶者に知られながら、別れられずに秘密の逢瀬を重ねる」…あまりに濃い。今年話題となった婚外恋愛ドラマ『昼顔』や『同窓会』も一瞬にしてかすむほどドラマチックで、生々しいリアリティにあふれている。

―恋に落ちたときの心情、恋が終わるときの切なさが微に入り細に入りつづられているので、身勝手な男だと思いながらも切なさがひとしおです。同時に、こんなにも恋を語る男、というのにも驚きました。

亀「そう、みんな恋を語るボキャブラリーも表現力もあるんです。私が取材をはじめた15年前には、そんな男性いなかった。照れて話せないんじゃなくて、自分の感情がわからないの。“悔しかった” “うれしかった”とはいうけど、どのレベルかは伝わってこないし、うれしさのなかに切なさがあるとか、そういう複雑な感情になるとまったく表現できない。ところが最近の50男は自分の感情を表現するのがものすごくウマい。なかには感極まって涙を流しながら…」

―泣くんですか!?

亀「ぼろぼろ泣きながら語る人もいましたよ。あと衣服の左胸あたりをぎゅーっとつかんで、“ここが痛いんです!”って訴える男性。私は一瞬、吹き出しそうになったんだけど、本人はいたってまじめに、ままならない恋の苦しみを訴えているんです。でも、みんなツライツライっていいながら、目がすごく生き生きしている。そうやって煩悶しながらも、50男たちは恋愛によって生きる張り合いを得て充実しているんですよ」

―性的にもたいへん満たされるようで、これがまたおぼれる一因にもなるんですね。

亀「肉体はともかく、気持ちは一気に20代に引き戻されるようですね。自分で自分の身体を制御できなかった時代。でも、制御できないからこそ恋愛ですよね。制御できない自分になりたいという欲求がくすぶっていたからこそ、そうやって欲望にふり回されるのも喜びになるようです。それでいて気持ちにはオトナの余裕があるから、相手をしっかり喜ばせることもできるようになっている…これは夢中になりますよね」

―とはいえ、「婚外恋愛、ダメ。ゼッタイ。」という倫理観ある人たちも世の中にはたくさんいます。

亀「そういう人たちこそ婚外恋愛におぼれる可能性があるんですよねぇ。それまで自分が信じていた価値観をみずからの手で壊すものだから、罪悪感がすごい。地獄に堕ちるぐらいに思いながら、でもどっぷりと恋にハマっていく…。取材対象者としてはいちばん面白いですね。狂い咲きですよ。ぐわーっと全身の血が逆流する感じを、初めて体験するんです。それまで自分にかけていた抑圧が大きかったぶん、反動ですごいジャンプ力を見せてくれます」

―最後の恋を終えた男たちは、どうなってしまうんでしょう?

亀「60代、70代になっても元気に恋愛をする人はいるだろうけど、ここに出てきた彼らについては、ほんとうに最後かもしれないと思っています。ちょこちょこ上手に遊べる人と違って、本気で恋をして、本気だからこそたくさん苦しんだ人たち。これが最後でいい、と思える恋をしたんです。その思い出を反芻しながら、この先20年は生きていけるんじゃないかな(笑)。そんな彼らの恋を、私はとても愛おしいものと感じました」

 本書のカバーには一世を風靡したチョイ悪親父雑誌『LEON』のモデルさながらの男性が描かれているが、本書の主人公である男性たちは、オシャレでもダンディでもない“フツウのオジサン”だ。ページをめくるときには身近な50代男性を想像してほしい。隣の部署の冴えない部長や、親戚の地味なオジさん…。もしかしたら彼らも、プライベートではめくるめく婚外恋愛の世界で胸を焦がす主人公かもしれない。

取材・文=三浦ゆえ