中学の授業で『ウルトラマン』 生徒たちはそのテーマをいかに考察したのか?

エンタメ

2015/5/3

 およそ1971年頃から、多くの特撮番組が放送された時代があった。この時期を「第二次怪獣ブーム」などと呼称するのだが、早い話が「特撮番組が流行った時期」だと思ってもらえればいい。そういう時代を生きた人たちは、現在40代の働き盛りとなっているが、今回取り上げる『ウルトラマン 「正義の哲学」』(神谷和宏/朝日新聞出版)の著者も、その世代の人だ。

 「ウルトラマン」シリーズは、基本的に子供向けの特撮番組という認識で間違いない。「第二次怪獣ブーム」の世代も、ハマったのは子供時代だ。そしてごく一部かもしれないが、ハマったまま大人になった人たちもいる。おそらく著者の神谷氏も、そんなひとりなのではなかろうか。

 普通、いわゆる「特撮物」というのは少年期の早い段階で卒業する人がほとんどだろう。しかしこの神谷氏は、卒業どころか仕事に役立てているのだから素晴らしい。職業は中学校の国語教師であり、自らの授業で「ウルトラマン」シリーズの映像を見せ、生徒たちに感想を書かせているのだ。教育に『ウルトラマン』──なんとなく結びつかない印象をお持ちの向きもあるかもしれない。しかし長く支持され続けてきたこのシリーズには、子供に教え伝えるべきテーマを持つエピソードが、確かに存在するのだ。氏はそういったエピソードを選んで子供たちに鑑賞させている。本書には授業のことにも触れられているので、少し紹介してみよう。

 授業に選ばれたエピソードは『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」。内容は割とハードで、異様な雰囲気を持つ老人と少年が周囲の住民から「宇宙人」と迫害され、実際に宇宙人であった老人=メイツ星人を、無抵抗にも関わらず警官が射殺してしまう。結果、メイツ星人が封印していた怪獣ムルチが暴れだし、住民たちは郷秀樹=ウルトラマンジャック(※帰ってきたウルトラマンの名前)に退治を懇願。彼は不本意を覗かせるも、ムルチを退治するのだった──。この話を鑑賞させたあと、生徒たちにワークシートを配布して感想を書かせる神谷氏。生徒からは「差別問題を解決できるのはウルトラマンじゃない、人間だ」とか「弱い人間が、いつ悪の側に回ってしまうかわからない」というものから「メイツ星人を殺した市民たちには彼ら特有の正義がある。自分たちを守るためにメイツ星人を殺したのでは」という深い内容のものまで見られたという。

 このやり取りを見る限り、授業は正しく機能していると感じる。そもそも中学生には活字だらけの教科書より、『ウルトラマン』のような特撮番組のほうがよほど親しみやすいはずだ。それでもこのような授業がほかで採用されているかといえば、寡聞にして聞かない。それはおそらく「特撮物」が未だ社会的に低く見られているからだ。「クール・ジャパン」の一環として「ジャパニメーション」が積極的に海外発信されている現在でさえ、そうなのである。昔から「特撮番組は子供が観るもの」と一段低く思われていたのだが、そういうレッテルが厳然として残っていることがよく分かる。

 だからこそ、この授業の様子が2006年に『筑紫哲也NEWS23』で取り上げられたのには意義がある。教育論ではなく『ウルトラマン』生誕40周年特集の一環としてではあるが、こういう教育法を採っている人もいるのだということを、少なくとも番組を見た人が知ったことに価値があるのだ。文部科学省のお偉方とか役所の人は頭が堅そうだが、そういう人たちが「こんなやり方もあるんだ」ということを認識してくれれば、「ウルトラマン」シリーズが学校教材として正式採用される未来があるかもしれない。そうなれば日本の将来は、光の国のヒーローが明るく照らしてくれるはずだ!

文=木谷誠(Office Ti+)