日本語の宿命? フツーの親たちが子どもに「キラキラネーム」をつけちゃう理由

社会

公開日:2015/5/27

 「光宙(ぴかちゅう)」「空翔(あとむ)」「愛夜姫(あげは)」「紗冬(しゅがあ)」「手真似(さいん)」…。ここまで奇抜なキラキラネームを持つ子どもは少ないだろうが、今までどおりの漢字の常識では読めない名前を持つ子は増えつつあるらしい。

 リクルーティングスタジオより発表された「2014年 赤ちゃん名づけ男女年間トレンドベスト30」を見ても、「椛(もみじ)」ちゃん、「心桜(こころ)」ちゃん、「莉琉(まりる)」ちゃんなど、すぐには読めない名前が上位を占めている。キラキラネームの方がマジョリティ化している現代では、キラキラネームをつけるのは、いわゆるバカップルでも元ヤンでもなく、フツーに社会生活を送っているフツーの人たちになりつつあるようだ。

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 親たちは、なぜわざわざ読みにくい名前をつけるのだろうか。その疑問に伊東ひとみ著『キラキラネームの大研究』(新潮社)は迫る。キラキラネームが増え始めたのは、 1990年代半ば頃から。ちょうどその頃1993年10月に創刊した『たまごクラブ』(ベネッセコーポレーション)では、新しいセンスで名前をつけるように積極的に提案し、個性的な名前を数多く紹介した。たとえば、『たまひよ赤ちゃんの名前事典2013~2014年版』(栗原里央子:監修、たまごクラブ:編集)で「ここあ」ちゃんという名前を引くと、「心亜」「心杏」「心彩」「心葵」「心温」「心暖」「瑚々杏」などバラエティー豊かな提案をしてくれる。このような提案が大人気となり、キラキラネームが広がるひとつのきっかけとなった。

 しかし、これは要因のひとつではあるが、世間一般からみると、キラキラネームは教養欠如といわれ就職にまで悪影響を及ぼすとの指摘もあるほどイメージが悪い。伊東氏は、芳しくない世評が耳に入らないはずはないのに、現代の子育て世代の大部分がキラキラネームをつけてしまう理由を、日本語と漢字の歴史を概観しながら解き明かす。

 はるか昔、古代日本には自前の文字がなかった。日本人の祖先は、中国の言語である漢字を借りて、それを無理やり当てはめることで日本語を形成していった。昔も当て字のように漢字を用いるキラキラネームはあったが、かつて漢字は、教養の高さを表すもので、つけられた名前には漢籍の知識があり、由来があった。ところが今では、インターネットの普及により難しい漢字を調べやすい時代となったことに加え、「本気」と書いて「マジ」、「美男」と書いて「イケメン」と読ませたりするなど漢字をイメージやフィーリングで捉える傾向が増してきた。そのため、何の漢籍の知識も由来もなく「苺苺苺(まなえる)」「澄海(すかい)」「在波(あるふぁ)」「今鹿(なうしか)」「王冠(ティアラ)」「希星(きらら)」というようにアクロバットな当て字が使われるに至ったのである。

 そもそもキラキラネームというのは、音の響きにこだわるあまり、音と漢字を強引に組み合わせた名前だ。親として音の響きを大切にし、なおかつ願いを託した漢字を使いたい。そんな思いから名付ける際に漢字のイメージを重視し、今までの常識からは外れた漢字の読み方をしてしまう結果を招いたのである。

 さらに、キラキラネームは、見慣れてくると読み方の予想がつくようになり、知らず知らずのうちにキラキラネームに対する「アウト」「セーフ」の判定が曖昧になってくる。たとえば、人気子役の芦田愛菜(まな)ちゃん、谷花音(かのん)ちゃん、本田望結(みゆ)ちゃんなどの名前を最初に見たときは読み方がわかりにくいと感じたかもしれないが、すぐに慣れ、今ではなんの違和感もなく受けて入れている。キラキラネームかどうかの境界線はいつも簡単に揺らいでしまうもの。親御さんからしたって、ステキな名付けができたと納得しており、キラキラネームだとはつゆほども思っていない場合も少なくない。

 名前に使う漢字の見た目やイメージばかりを重視するため、おかしな現象も起きているらしい。早稲大学社会科学総合学術院・笹原宏之教授は、『日本の漢字』(岩波書店)の中で、人名用漢字選定を参考にするにあたって、名付け親たちが要望している漢字の実態を調査しているが、時折、名前には不適切な名前の要望が寄せられているという。たとえば人名漢字として採用してほしいとの要望が寄せられた漢字、第24位の「僾」。「ほのかにしか見えない、ぼんやりしている」というあまりいい意味ではないが、「人に愛される子に育ってほしい」からこの漢字をつけたくなってしまう親が多かったのだろうか。ほかにも「腥(なまぐさい、生肉、汚い)」「胱(中がうつろになった臓器)」「惷(ものわかりが鈍くてのろい)」など、名前につけてはならないような漢字を要望する声が多くある。これらの漢字は選定されなかったから名前に使われる心配はないが、漢字を「イメージ」で捉える傾向はこれからも広がりそうだ。

 名前は子どもに与える最初のプレゼント。こだわりが強過ぎるあまり、気づけばキラキラネームとなってしまっている場合も多そうだ。だが、冷静になって、「本当にこれで周りは読めるのだろうか」を考え、「この漢字の本来の意味は何なのか」を今一度確認するほうが良いだろう。キラキラネームが一般化しつつある世の中では、アナタだって、気づいたら、キラキラネームを子どもに名付けていた、という可能性は十分にあるのだ。

文=アサトーミナミ