『ビブリア』に続く大ヒット間違いなし? 和菓子職人と天然お嬢様のほんわか名コンビ!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

 和菓子にはその小さな形のうちに思いやりの心が散りばめられている。可愛らしいフォルム、上品な甘さ、深みのある味わい…。見ても食べても人を幸せにする和菓子を作り上げるのはさぞ鍛錬が必要なことだろう!

 そんな和菓子をテーマにした小説が今話題を呼んでいる。『お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂』は電撃小説大賞で才能を見出された似鳥航一氏によるヒューマンノベル。同作と同じくメディアワークス文庫から刊行されている作品といえば古書にまつわる謎を解き明かしていく三上延氏の『ビブリア古書堂の事件手帖』が思い出されるが、この物語では、人情味溢れるにぎやかな下町浅草を舞台に、主人公とヒロインが、和菓子の秘密に迫ることで日常のあらゆる事件を解決していく。『ビブリア古書堂』に匹敵する大ヒットシリーズになること間違いなしの作品だ。

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 主人公は両親の死後、和菓子屋・栗丸堂を継いだ青年・栗田仁。若いながらも腕は確かな和菓子職人として店を切り盛りしていた彼だが、作る和菓子はどうも親の味には及ばず、鍛練の日々が続いていた。そんなある日、仁はふとしたことから、和菓子の知識を持つ謎の女性・葵と知り合う。若い素人の女性に和菓子を教わるのを潔しとしない職人気質の栗田。しかし、葵との出会いが、栗田の和菓子を次第に変えていく。

 職人気質な和菓子職人・仁と、和菓子に詳しいお嬢様・葵というコンビがたまらなく可愛らしい。やわらかな見た目のうちに深い知識を秘めた葵はまるで和菓子の妖精のよう。葵は一体何者なのだろう。普段は、おしとやかで天然発言連発だが、和菓子のこととなると、人が変わったようになる。葵には、甘いものを食べるだけで、どんな材料からどう作られたのか分かるという能力があるだけでなく、その知識はあまりにも深く、どんなトラブルに対しても名アイデアを思いついてしまう。最初は葵から助言を受けることに抵抗を感じていた仁だが、葵の指摘する内容の的確さにすぐに圧倒される。彼女に振り回されながらも一緒に難題を解決していく2人の姿は読んでいて微笑ましい。頑固な栗田と飄々とした葵の会話が絶妙な味わい。2人の微妙な距離感からも目が離せない。

 20年ぶりに懐かしの栗丸堂の豆大福を食べ、「以前と味が違う」とガッカリして帰っていった客・田邊公夫。仁に向かって「和菓子が嫌い」と言い放つ悪友・浅羽怜。自宅を覗く不審者に悩まされている仁のお姉さん的存在・澄野小春…。仁と葵の前には様々な人々が現れ、2人は和菓子の力で人と人とを結んでいく。下町浅草ならではの絆がぽかぽかとあたたかい。べらんめえ口調のちゃきちゃきの江戸っ子が登場するなど、「下町とはいえ…こんな人ホントにいるのか?」と思わされてしまうキャラも登場するが、そこがまた何とも面白い。似鳥氏の生み出すキャラはどれも個性が強い。芯が強いようでどこか抜けているキャラたちのやりとりに、ほんわかさせられてしまう。

「ふんわりめ、それでいて軽い湿り気を含むしっとりした生地と、粒の形が分かる旨味たっぷりの餡が絶妙に調和していて、間違いなく美味だ。卵が醸し出す、優しい芳ばしさ。豆の風味豊かな、程好い餡の甘さ。素朴で懐かしく、それでいて良いものはやっぱり良いと素直に思える和の味だ」

 和菓子の描写は読むだけでヨダレが出そう。小説になぞらえて書かれた和菓子のウンチクが、和菓子をますます美味しくする。ああ、この本を持って、浅草にいきたい。今読まなきゃ損な本。ぶっきらぼうな和菓子職人と天然お嬢様の今後の活躍から目が離せなくなりそうだ。

文=アサトーミナミ

『お待ちしてます 下町和菓子 栗丸堂』(似鳥航一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)