若手社員が社外勉強会に流れてしまうワケ――『若手社員が育たない。』豊田義博さんインタビュー【後編】

ビジネス

公開日:2015/7/13

 前編では今どきの若手社員の特徴や、人材が育ちにくくなった原因、またそれが5年後、10年後に基幹人材や幹部候補不足につながり、やがて日本企業が競争力を失っていくかもしれないという「最悪のシナリオ」について伺った。

 インタビューの後半では、そんな中でも成長しようと模索する若手たちの取り組み、そして若手社員が育たないという問題をどう解決してくのかを語っていただいた。

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【前編】ゆとり世代が昇進したら指示待ち上司が誕生? を読む

 

 

会社に適応し、活躍する人がしている「5つの経験」

 全6章で構成される『若手社員が育たない。』。第3章と第4章では、社会に適応し、成長しようとする若手が紹介されている。会社の採用担当者の多くは「入社後の適応・活躍は、大学時代の経験と密接な関係がある」と確信しているそうだが、そうした若手は大学生活で以下の「5つの経験」をしているという。

・社会人、教員など、自分と「異なる価値観」を有する人たちと、深く交流していた。
・自身が主体者として「PDS(Plan-Do-See 計画・実行・検証)サイクル」を繰り返し回していた。学園祭などのハレの舞台での経験ではなく、日常生活において小さな創意工夫を重ね、そこからの気づきから、やり方や考え方を変えてきた。
・自身にとって負荷がかかること、やりたいわけではないことを、自身の「試練・修行」の場として継続して行っていた。
・自身の思い通りにならず、「挫折」したり「敗北」感を味わったり、他者からの手厳しい「洗礼」を受けていた。
・前記を通じて、自身の「志向・適性の発見」をしていた。他者から指摘されるケースも多い。

「色々な若手に話を聞いていると、ちゃんと会社に適応している人ももちろんいます。そういう自発的にアクションが出来て、リスクも取れるという人たちからすると、リスクを回避しようとする人に対しては『出来るはずなのにやらないってもどかしい』存在に映ると話していましたが、でも、やっぱりできないんです。踏み出せない。適応している人たちは大学時代にこうした5つの経験をして、それが行動様式として自分の中に身についていて、一歩を踏み出す『踏み出し方』がわかっているんですが、普通の若手はこうした経験がないので、会社の中で何をしていいのかわからず混濁している状態で、立ちすくんで動けないんです。でもそんな若手がみんなやる気がないのかというと、実はいろんな見解を持っていたり、自分なりの意見があったりするんですよ」


豊田義博さん
豊田義博さん

視野狭窄に陥った若者たちを救う「勉強会」

 では大学時代にこうした機会に恵まれなかった人はどうすればいいのか? それには自分に合った「人が育つ職場」に身を置く(転職も含む)ことや、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の機会を活かすなどの手段がある。しかし若手の希薄な危機意識やリスク回避などもあり、なかなか難しい。そんな中、自身のキャリアに不安意識のある若手が参加しているのが、社外で様々な人が集まって行う「勉強会」だ。豊田さんは、若手人材育成のための代替手段・機能のひとつとして有望なのではないかと推察しているという。

「彼らにはガツガツした上昇欲求はないのですが、自分自身を豊かにしていきたい、自己を充足させたいという意味での成長欲求はある。でもそれが仕事の現場では求められていないんです。そういう場合、仕事以外のプライベートに逃げ込んで自己充実させようとする人と、他に何かあると考えて勉強会などに足を運んでいく人に分かれるんです。彼らはエネルギーはあるんだけど、それをどう発露していいかわからないだけなんです。自分がワクワク出来たり、力を発揮したりする場所を探している。本来は職場がそういう場であったわけで、今もそうであればいいんですが…そう考えると、そんな彼らを上手に活用できていない側の問題も大きいなと思いますね」

「勉強会なんかに行ってる暇があるなら仕事をしろ!」と思う方もいるかもしれない。しかし若手は、そうした縦社会的な思考の上司に辟易しているのだ。彼らが集う“横のつながり”である勉強会の仲間は、これまで職場の上司、先輩、同僚が果たしていた役割を担っており、そこで若手は視野が広がり、自分が何を求め、何をしたいのかということを発見し、社会にフィードバックしていくのだという。

「例えば仕事においては、“白”のことはやる、“黒”のことはやらない、と決まっているけれど、やってもうまくいくかどうかわからない“グレーゾーン”というのがありますよね。そのグレーゾーンのことって、昔はとりあえずやってみようとしていたんです。しかし今の若手はどうなるかわからない、答えの見えない、リスクのあることはやりたがらない。でも見えないなりにどうしたらいいのか、それが黒になるのか、それとも白になるのか、どこからどう突けばいいのか、どうアプローチするかという場面では基本的に待っていてはダメで、上司なり、まったく世代の違う人に話しかけて意見を聞き出したり、試しに色々やってみたりすることが必要なわけです。仕事をしていく上での基本的な部分とは、価値観の違う人間とコミュニケーションを取り、PDSを繰り返して試行錯誤することです。そういう経験をしていくと、未知のことに足がすくまず、一歩が踏み出せるようになる。それを若手は勉強会で学んでいるんです」

これから働く人、今働いている人…すべてに読んでほしい

 続く第5章では大学での教育の重要性について、最後の第6章は若手社員の学習環境の改革と、社会はどう変わるべきかというビジョンの提示がなされる。ちなみに本書では、新卒採用や就職活動に関する問題については言及されていない。このことについて豊田さんは「新卒の就職活動だけを問題にするよりも、社会全体を変えていけば、新卒採用のあり方も必然的に変わってくる」と言う。

「欧米での採用やキャリアデザインの話で『欧米では新卒採用はない』という話をする人がいますが、新卒で優秀な人間は、幹部候補というような形で採用するキャリアトラックはちゃんと存在するんです。リーダーシップ・プログラムやマネジメント・トレーニングと呼ばれているようなコースがあって、そこに入っていく人は、いろんな経験をしながら幹部になっていく。でも幹部以外の多くの仕事は、製造なら製造、設計なら設計とジョブの内容が決まっていて、そこは新卒も中途もない。なのでかなりオープンなマーケットで、人が足りなくなったら募集をするので、就職活動シーズンがあるわけではないんです。でも日本も昔は欧米と同じように、キャリアコースとジョブの内容が決まった仕事に分かれていたんです。それが大卒は幹部候補で、高卒や中卒の人は職種が決まっている部署に配置されるという形だった。でもその『大卒は幹部候補』ということが、システムを変えずにそのまま今に至っているのが、現在の就職活動を難しくしている大きな要因だと思うんです。全体の20%とか25%が大学に進学していた頃はそれでもよかったんでしょうが、約半数が大学に進学する今、みんなが幹部になれるわけじゃないということを、企業の中で、あるいは社会の中できちんとデザインし直す必要があるんです」

 もともと豊田さんは、この第5章や第6章での提案や解決策を、企業の管理職や大学関係者などへ向けて書いていたそうだが、本書を読んだ人から「これは若手も読んだ方がいい」と指摘されたと語る。

「私は本書で、管理職や教育関係者へ“こういうふうに社会を変えていこう”という提案をするつもりだったんですが、今の社会の状況を説明している第1章や第2章などを、若い人から中間管理職のミドル層に読んでもらって、日本が危機的な状況にあるということを知っている人間を増やして、社会全体を動かしていくことの方が、結果的に解決策になるかもしれないな、と。第3章や第4章には様々な事例があって、それは就職活動中の学生や悩める若手社員に読んでもらうと参考になると思います。ただ『社会はどう変わるべきか』というビジョンは、若い人たちがすぐに解決が出来ない社会装置の話なので、参考にしかならないかもしれないですが、一歩を踏み出すことがどれだけ大切なことか、それがどう社会を変えるかということに気づいてもらえるといいなと思いますね。そしてもともとのターゲットである、しかるべき社会の立場にいる人たちにも読んでもらって、少しでも世の中を良い方へ変え、結果的に環境適応性の高い若手が増えるような社会へ変わっていくことを強く希望しています」


とよだよしひろ リクルートワークス研究所主幹研究員。1983年東京大学理学部卒業後、リクルート入社。『就職ジャーナル』『リクルートブック』『Works』の編集長などを経て現職。キャリア論、世代論、学習理論、組織行動学などについての調査研究を行っている。著書に『就活エリートの迷走』『「上司」不要論。』、共著に『新卒無業。』など。

取材・文=成田全(ナリタタモツ)