『僕だけがいない街』三部けい、『STAR WARS』にマンガの手法を学んだ<後編>

映画

公開日:2015/12/15

 三部さんのスター・ウォーズ遍歴を中心に語ってもらった【前編】につづき、後編では、『スター・ウォーズ』という作品が、『僕だけがいない街』にどう作用していったのか、そして三部さんにとって『スター・ウォーズ』とは何か? に迫ってみました。

スター・ウォーズは「セリフ」よりも「キャラクター」

 新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に期待することを伺うと、「予告を見ると、とても現代の映画っぽい感じがしたんですよ。トム・クルーズ主演の映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』みたいな、あんな戦闘シーンのイメージなんです。埃っぽい感じがリアルなのかな」と分析する三部さん。新しいグッズに関してはレゴのミレニアム・ファルコン号などをすでに購入しているそうだ。

「俺は人間臭い奴が好きなんで、新作に好きなキャラクターがいてほしいなと思ってます。すでに造形にはやられてるんですが…フィギュアを買ったりは、とりあえずどんな奴なのかを見てからですね(笑)。新キャラで気になってるのは、トルーパーでマントをしている『キャプテン・ファズマ』ですね。このキャラだけマントをつけているので何者だろうって」

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 三部さんは今回の取材前に、とりあえず見ておこうと『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を見返していたところ、止まらなくなって『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』まで一気に見てしまったという。改めて見て、気になったスター・ウォーズの好きなセリフがあったかを三部さんに聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「スター・ウォーズってネガティブなセリフが多くて、イメージとしては『ヤバイ!』ばっかり言ってるみたいな感じが自分ではあります。『R2、開けてくれ!』とか(笑)。そう考えると、前向きなことを言ってたのはアナキンだけのような気がしますね。アナキンだけは常にわかりやすく、ポジティブなセリフを言ってるような気が。逆にヨーダとメイス・ウィンドゥが話してるところなんて『ヤバイヤバイ』と言ってるイメージしかないです(笑)。なので俺にとってスター・ウォーズって、セリフよりも『キャラクター』なんですよ。チューバッカなんか言葉じゃないのに、ハン・ソロが『行きたくない』と言ったことに対して『オーーー!』と言うだけで、ああ絶対行きたがってるなってのがわかって、コイツいい奴だなって一瞬でわかる(笑)。あとは『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』で、オビ=ワン・ケノービとクワイ=ガン・ジンとダース・モールの三者三様な感じとか。あのパワージェネレーター室みたいな場所で、ガーンガーンってゲートが閉まるシーンあるじゃないですか。そこでクワイ=ガンは座って落ち着いて冷静に、ダース・モールは凶悪な顔で行ったり来たりするトラやライオンみたいな感じ、オビ=ワン・ケノービは殴りかかりたくてしょうがない若くて直線的な感じとかが出てる。そういうところに惹かれますね」

単なる説明に終わらない「後付け」の素晴らしさ

「そうやって、昔見た映画を見直すとよくあるんですよ。『あれっ、これ俺も漫画で描いたな』っていうシーンが。『僕だけがいない街』にもありますよ。でも形も全然変わってるし、他人が見たら全然気がつかないと思うんですけど、構図とか人物同士のやり取りだとか、そういうシーンをどっかで覚えてて、必要になった時にどっかから出てくるんでしょうね。それがスター・ウォーズを見ていると『あ、これだったんだ』というのがあるんです。そう考えるとスター・ウォーズの影響は大きいですね。それから『僕だけがいない街』は鈴木光司さんの小説『リング』シリーズにも影響を受けてるんです。小説を読んで、よくここまで過去から現在までをつなげて書けたなって思ったんです。その時に感じたのが、話ってどこからスタートしても作れるんだということ。スター・ウォーズもそうなんですけど、前後含めて全部話をつなげられる、後から話に深みを持たせることもできるってことなんですよ。例えばC-3POを作ったのはアナキンで、それが後々ルークについてまわるようになるのって、ファンの人が見ると楽しいじゃないですか。『スター・ウォーズ』と『リング』にはそういう後付けの素晴らしさと、その後付けが単なる説明じゃないっていう手法を学びましたね。それは『僕だけがいない街』を描いていて実感してます。そういう感覚が、自分の中で身になっていることですね。ちなみに『僕だけがいない街』にはあえて説明していないところもあるので、読み直すと後から気づいたりすることもあるはずですよ」

 最後に「三部さんにとって『スター・ウォーズ』をひと言で言うと?」という質問をすると、かなり悩みながらこんな答えを出してくれた。

「子どもの頃から見てるものですから、映画を見る上での指針みたいになってるものですね。スター・ウォーズって単なるSFではなくて色んな要素があって、特撮なんかも『スター・ウォーズがこのくらいやってるから、最低このくらいやらないとダメだよな』という。それをひと言で言うとなんだろう…目標でもないし、それに近づきたいと思うことはありますけど…あ、わかりました! 『自分も家族も一生見続ける作品』ですね。嫁(イラストレーターの兼処敬士さん)もスター・ウォーズが大好きなんですよ。ウチの子はまだ『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』しか見てないんですけど、新作を子どもと見ることができたら、言うこといっぱいありそうですね(笑)」

前編はこちら

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

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『僕だけがいない街』(三部けい/KADOKAWA)
 売れない漫画家の藤沼悟は「再上映(リバイバル)」と自分で名づけた、不思議な現象に悩まされていた。悪いことが起きそうになると突然時間が巻き戻り、原因が取り除かれるまで何度も繰り返されるのだ。ある日、アルバイトである宅配ピザ屋のバイクに乗っている時に「再上映」が起こり、悟は事故に巻き込まれてしまう。さらにある大きな事件がキッカケで、これまでに経験したことのないほどの「再上映」(時間の巻き戻し=タイムリープ)で小学生だった1988年に戻ってしまう。大人の記憶のままの少年・悟は、同級生が巻き込まれた連続誘拐殺人事件を未然に防ぐべく調べ始めるが……。本作は2012年より『ヤングエース』で連載中で、12月には待望の単行本第7巻が発売。また2016年1月よりフジテレビ『ノイタミナ』ほかでテレビアニメ化、そして同年春には藤原竜也主演で映画化される。