「ダメチーム」から「最強チーム」へ 米海軍の実話からなる組織改革の秘けつとは?

ビジネス

公開日:2016/1/12


『アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方』(マイケル・アブラショフ:著、吉越浩一郎:訳)

 「自由の国」アメリカにも、上司の言うことが絶対と見なされ、上下関係の極めて厳しい組織がある。軍隊だ。命がかかる特殊な職務なので、必要不可欠なこともあるだろう。それでも、部下を見下したり、意見を言わせたりしないことは、組織に不利益をもたらすようだ。

 組織を強化するためにも、部下をリスペクトし、上下なく自由に意見を出し合い、旧態依然のおかしなルールは打ち砕く。そうした考えのもと、「海軍一ダメ」と揶揄されたチームを「海軍最強」に変身させた艦長がいる。その経緯を失敗談も交えながら赤裸々に綴った本が『アメリカ海軍に学ぶ「最強チーム」のつくり方』(三笠書房)だ。

 成功のわかりやすい美談とはだいぶ違う。誘導ミサイル駆逐艦ベンフォルドの元艦長で著書のマイケル・アブラショフ氏は、信念の人だが、時に悩み、嫉妬し、「ああすれば良かった」と反省する。だからこそ、ダメチームがナンバーワンに上り詰める過程は、生々しいサクセスストーリーとして胸に響く。

上司は部下の身になって、何がいちばん大事かを考えるべき

 アブラショフ氏のモットーは、「君が艦長だ」。部下とのコミュニケーションを大切にしながら、それぞれに仕事を任せたのだそうだ。さらに、部下からより良いアイデアが出れば、即座に艦内放送で発表し、その功績を惜しみなく称賛する。モチベーションを高める数々の工夫ときめ細やかなフォローで、部下の能力はみるみる向上していき、海軍での評判もうなぎ上りに。

 だが、誇らしくなったところで、艦長は19歳の部下に諭される出来事に直面する。電子技術者のその若者が、「なるべく早く海軍をやめたい」と申し出たのだ。この自慢の艦を降りたいという部下をにわかには受け入れられなかった同氏だが、実は若者は電子工学が嫌いで、本当は社会福祉にたずさわりたかったという本心を知る。

 彼は自分が孤児院を出入りした生い立ちから、子どもたちにそうした体験をしなくて済むような手助けを何かしたいのだと明かした。そこで同氏は、自らのうぬぼれを認め、こう語るのだ。

私は愚かな自分をどこまでも恥じた。自分の年齢の半分にも満たない人間に、基本的な価値観を正されたのだ。
私はこの体験に動揺し、一週間ほど考え続けた。

 そして、艦長は彼に、新たに福祉にかかわる課外活動を一任。他の乗組員も協力し、次第に継続的にベンフォルドの乗組員たちは孤児院や病院の子どもたちへの福祉活動を行うようになるのだ。活動は内外で評価されるだけでなく、艦内に「奉仕の精神」を生み出し、士気も高まるうえ、精神的にもプラスに働くようになったと同氏は振り返っている。

 すべての部下と向き合い、過ちには猛省し、最善の解決策を試みる。実行力をもって、部下一人ひとりに最適な指導法を試行錯誤する艦長は時にとても人間くさく、だが着実に部下との信頼関係を築き上げていく。

怒鳴る必要はなく、束縛はゆるめる。互いにわかり合う関係へ

 部下を知ることで、彼らをどう指導するのが適切かもわかると同氏は説く。それぞれの得意分野が異なることはもとより、そもそもどんな目的や事情があって入隊したのか。すると、ベンフォルドの若い部下の約半分は、両親が大学へ進学させる余裕がないため、入隊していたことが判明。しかも、それまで周囲から期待されず、ましてや「大学なんて行けるはずがない」と決めつけられていた者が少なくなかったそう。

 そこで艦長は、大学入学に必要な学力試験であるSATを受験できるよう制度を整えた。すると、次々と部下が合格。また、海軍にある既存のテストでも、優秀な成績を収めるようになっていく。「ダメ人間」のレッテルほど無用なことはないと同氏は語る。

私は自分の部下たちの成長や業績に目を見張り、彼らのことをよく知れば知るほど、その潜在能力に限界がないことを強く確信するようになった。
部下にレッテルを貼ることをやめ、彼らを機械のように扱うのをやめれば、彼らの業績は向上する。

 一人ひとりの部下をリスペクトし、細やかなサポートと指導を重ねたアブラショフ氏は、2年の任期を終え、艦長を退く。数々の旧いしきたりを打ち破った同氏らしく、お決まりの退任セレモニーは行わず、勲章の授与も郵送での処理で済ませたとか。究極は別れの挨拶だ。それは、わずか5語。

You know how I feel.(私の気持ちはわかるだろう)

 長々とした挨拶は無用とばかりに、部下に余計な手間や気遣いをさせることなく、さっぱりと。言わなくともわかり合えているという信頼関係をあらわした、すべてが凝縮した言葉でもある。

 ビジネスやチームプレーに役立つメソッドが詰まった本書だが、詰まるところは、人と人とが支え合い、通じ合うためには、お互いの気持ちや状況を思い遣り、フラットなコミュニケーションを取ることに尽きるのかもしれない。

文=松山ようこ