裏社会で暗躍するトラブルシューターは“ハードボイルド書店員” 【ノベルゼロ】

文芸・カルチャー

2016/2/15


『ブックマートの金狼』(杉井 光:著、片岡人生、近藤一馬:イラスト/KADOKAWA)

テーマは、格好いい大人の生き様――。新創刊を迎えた小説レーベル「ノベルゼロ」が送り出すものは、いつか憧れた揺るぎないヒーロー像とハードな人間ドラマだ。大人が惚れる大人の主人公を通して、物語に触れる喜びを追求していく。そんな「ノベルゼロ」から今回取り上げるのは、杉井 光著『ブックマートの金狼』(片岡人生、近藤一馬:イラスト/KADOKAWA)だ。

表向きは一介の市民にすぎない主人公が、実は非合法の凄腕だった――。本書のタイトルからも連想される大藪春彦の小説『蘇る金狼』をはじめ、このパターンを踏襲した『静かなるドン』や『特命係長 只野仁』、『ごくせん』などは、勧善懲悪モノのひとつとして親しまれている。『ブックマートの金狼』で描かれるのも、そんな二面性を持つ主人公の暗躍だ。

主人公、宮内直人は新宿にある「くじら堂書店」の店長だ。アルバイトの高校生には「宮っち」の愛称で親しまれているが、どこか軽んじられている節もある。本人も自覚している通り冴えない30代の男なのだが、実は半グレに所属していた過去があり、表沙汰にできない揉め事を秘密裏に解決するトラブルシューターの顔を持っていた。そんな彼のもとに、現役の人気アイドルが警察にも相談できないトラブルを持ち込んでくる。

宮内の武器は腕っ節の強さもあるが、特筆すべきは裏社会で鍛えられた洞察力だ。件のアイドル、桃坂琴美の嘘も一発で見破る。宮内は死ぬほど悩んでいる人間の顔をよく知っていた。琴美もまた追い詰められた人間の顔をしていたのだ。それなのに依頼してきたのは、警察でも解決できそうなストーカーの処理。本当の依頼は、陰ながらストーカーを制裁してまわる兄、宏武(ひろむ)を止めることだった。

宮内が依頼を引き受け、話が進むにつれて加速度的に面白くなっていく。さながらハードボイルドな探偵小説だ。潜入や強請のような非合法なやり方も厭わずにストーカーを追い詰め、宏武を追跡する。追跡を阻止しようとするギャングがいれば、暴力沙汰だろうとお構いなし。もしかすると、残虐なバイオレンス描写から目を背けたくなる場面があるかもしれない。それでも、ぐいぐい引き込まれるのだ。宏武は本当に妹のために行動しているのか? 琴美の母親は何を隠しているのか? 宏武とギャングの関係は? 答えが見えてきたかと思うと、また新たな疑問が降って沸いてくる。「どうして?」、「なぜ?」という事態に陥り、気付けばページをめくる手が止まらなくなっている。

たっぷり詰まったサスペンスとバイオレンス。確かに、面白い。しかし本書がユニークなのは、主人公の表の顔が書店員だということだ。宮内は本を愛し、書店を愛している。書店勤めを馬鹿にされれば、ヤクザの組長だろうと凄んでみせる。ヴォネガットやチャンドラー、カポーティを嗜む書店員が、裏社会の人間と渡り合うのだ。これがカッコよくないわけがない。まさに“ハードボイルド書店員”といっていい。

ところどころ出てくる本や書店にまつわる小ネタも、読書好きや書店員だったらニヤリとするはず。その上、本はストーリーにもしっかり絡み、真相の解明に大きな役割を果たす。ハードボイルドやサスペンスが好きな人はもちろん、本そのものが好きという読書家にも読んでいただきたい1冊だ。

文=岩倉大輔