綾野剛と妻夫木聡がゲイカップルに! 人気小説『怒り』が映画化! 日本の3地点の出来事が“凄惨な事件”で繋がる…!

文芸・カルチャー

2016/3/5

今年の9月、映画公開が決まった吉田修一の『怒り』(中央公論新社)。「週刊文春ミステリーベスト10」(2014年)ランクインや、「本屋大賞」(2015年)ノミネートなど話題となった人気作品の映画化というのもさることながら、とにかくその出演者に注目が集まっている。森山未來、松山ケンイチ、妻夫木聡綾野剛といった実力派俳優に加え、宮崎あおい、広瀬すずなど可憐な女優陣、なにより主演は渡辺謙と超豪華。たとえ原作を読んでいなくとも、タイトルの語感と顔ぶれの組み合わせだけでも、なにやら重層性のあるドラマの予感がしてくるだろう。折しも文庫版『怒り』(上・下)が中公文庫から登場したので、未読の方はこの機会にぜひ手に取ってみてほしい。

物語は夏の夜、静かな住宅街で起きたショッキングな殺人事件の記録から幕を開ける。若い夫婦を惨殺し、6時間もエアコンの効かない室内で冷蔵庫にあるものを食べるなどして過ごした犯人・山神一也は、バスルームに被害者の血でかいた「怒」の文字を残して姿を消す。捜査は難航し、事件から1年経っても山神の消息はつかめず、警察はテレビの公開放送に望みを繋ぐ日々。そんな頃、房総の港町で働く洋平・愛子親子の前に田代が、東京の大手企業につとめながらゲイライフを楽しむ優馬の前に直人が、沖縄の離島に母と住む泉と友人の辰哉の前に田中がそれぞれ現れる。同じ頃まったく別の場所に現れた3人の身元不詳の男たち…明らかにワケありだが誰もが素性に深く踏み込めないまま、それでもたわいのない日常の中には少しずつ「信頼」が生まれはじめる。そんな矢先に明らかとなった「凶悪犯の山神が整形して逃亡している」という事実。この男は一体何者なのか? 果たしてこの中に山神はいるのか? それぞれの心に再び暗い影がもたげはじめ…。

東京・房総・沖縄と3つの視点のバラバラな人間模様がひとつの凄惨な事件で繋がり、いつしかクライマックスにむかって同時進行していく展開はなんともスリリング。しかも冒頭は現在も未解決の「世田谷一家殺人事件」を、山神の逃亡劇は「リンゼイさん殺人事件」の犯人・市橋達也をそれぞれ連想させ、山神が残した「怒」の文字とその不可解な行動の得体の知れない不気味さとあいまって、物語世界には息苦しくなるほどの緊張感が漂う。

そんな重い気配の中でも男との心の交流は丹念に描かれ、そのほんのりとした温もりはひと時ほっとさせてくれもする。だが、ぬぐいされない黒い影のようなモヤモヤが常に心の奥に横たわるのは避けられず、普通の人々が等身大の幸せを求めて生きる姿を映しただけのはずなのに、なぜだかどこか哀しい。「信頼関係」が社会の基本ではあるけれど、こうしてギリギリの問いとして目の前に提示されたとき、あらためて人が人を「信じる」という行為の難しさ、その重みと責任を実感させられる。そしてまた、すべての悲劇のはじまりとなった山神の凶行を思うとき、「怒り」という感情の暴発的な不条理さは絵空事ではなく、我々の日常とすでに地続きであるという事実に戦慄するのだ。

ミステリー仕立てながら謎解きをこえた重厚な人間ドラマを描き出すのは、さすが芥川賞作家の吉田修一。今回の映画化にあたっては、好評だった『悪人』と同じ李相日が監督・脚本をつとめるとあって、再びのタッグに期待がかかる。

ちなみにキャストが豪華な映画の場合、あらかじめ原作を読んで世界をインプットしておき、役者たちがその世界をどう演じるのかを楽しむのも醍醐味のひとつ。なにしろ『怒り』の場合、東京、房総、沖縄の3つの舞台で人物たちが複雑な人間模様を織りなすとあって、その楽しみも3倍だ。ゲイカップルの優馬と直人を妻夫木と綾野が演じるなど、すでに配役も発表されているので、映画公開まで妄想をふくらませるのも期間限定のお楽しみになるにちがいない。

文=荒井理恵

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