ブラック葬儀屋にカモられないために。突然の不幸に備えて、現役葬祭ディレクターが明かす“葬儀”の表裏

社会

公開日:2016/4/25


『ブラック葬儀屋』(尾出安久/幻冬舎)

 家族との別れは不意に訪れる。入院した祖母が危篤との知らせが数年前の深夜、実家で暮らしていた筆者の元にも届いた。急いで駆けつけたものの、時すでに遅し。病院のベッドに横たわっていたのは、事切れた祖母の姿だった。うつろな目つきで天井を見上げるかのような祖母の面持ちに、自然と涙が溢れたのは今でも忘れられない思い出だ。

 しかし、遺族というのは何かと慌ただしい。悲しみにひたれるのもほんのわずか。その後、親類縁者への連絡と共に、葬儀の段取りを組まなければならない。ところがここで、見ず知らずのスーツを着た人物がある一言と共にあらわれる。

「たいへんご愁傷さまでございます」

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 病院に常駐する葬儀会社の人間である。促されるまま、遺体と共に霊安室へといざなわれる。家族を失うという突然の不幸に混乱したまま、葬儀会社の人間は次の一手を打ってくる。

「お悔やみ申し上げます。ところで、どちらかお心当たりの葬儀社はございますか?」

 葬儀を経験する機会など、そうそうあるものではない。ましてやお抱えの会社などあるはずもなく、「とりあえず家まで弊社で運びましょう」と言われたら最後。考える間もなく葬儀が組まれ、気がつけば多額の請求をされてしまう事例もある。

 一部に筆者の実例を交えたが、生々しい実態を描くのは書籍『ブラック葬儀屋』(尾出安久/幻冬舎)である。著者は、現役葬祭ディレクターとして活躍する尾出安久さん。葬儀業界へ身を置きつつも実体験を交えて内情を暴露しているが、ここでひとつ、本書から最悪のケースを想定してみたい。

先手、先手で悲しみに暮れる遺族を葬儀へ追い込む

 遺族にとって、霊安室での選択肢は3通りである。遺体をお抱えの会社に任せるか。それとも、病院に相談するか、目の前の葬儀会社に任せるかだ。ただ、不慣れな遺族は「とりあえず家まで運びましょう。喪主になる方、道案内を兼ねて故人といっしょに車に乗ってもらえませんか」と促されるまま、なし崩し的に葬儀を発注することになる。

 遺体が自宅へ戻ってから、葬儀会社はさらにたたみかけてくる。「ふとんに寝かせてあげてください」「線香の準備をします」となってしまえば、もはや葬儀会社のいいなり。実際は遺体の搬送だけ頼むのも可能だが、悲しみと不安なままでは冷静な判断も難しい。挙句「申し込みが遅くなればなるほど、葬儀の日取りも遅れます」と発破をかけられ、金額を気にする間もないまま、ずるずると葬儀当日を迎えてしまうのである。

いくらかかるの? 気になる葬儀の経費を紹介

 葬儀にはお金がかかる。漠然としたイメージはあるものの、では実際、何が必要でいくらぐらいかかるのか。本書では、項目ごとの目安となる金額が紹介されている。

・遺体の搬送料金

 本書で提示されているのは陸送と空送である。空送は主に、旅先で不意に亡くなった場合を想定したものだ。一般的に、陸送の場合は10キロメートル単位で1万円。タクシーと同じく、夜間割増しで高速道路を使うときは別途料金が加算される。一方、空送の場合は「貨物扱い」となるため、航空会社ごとの規定により距離と重さで運賃が決まる。

 陸送で500キロメートルを超える場合は、空送を使う方が安くなるというが、じつは、医師から発行された「死亡証明書」など、死亡原因をきちっと証明する書類があれば、遺族が運ぶことも可能だという。とはいえ、あまり現実的な選択肢とはいえない。

・祭壇や仏花、弔問客への振る舞いの考え方

 葬儀を執り行うにあたっては、様々なモノが必要になる。まず、遺影を飾る祭壇料は相場が広く、レンタルで安いものであれば20万円から。一般的には高ければ500万円もするというが、家族葬も定番となりつつある昨今では、大金を費やす事例は少なくなっているという。

 また、比例して祭壇を飾る仏花も縮小傾向にあるというが、ブラック葬儀屋が狙うのはここで、「喪主の花が1対(2基)、子供一同で1基、孫一同で1基ですから全部で4基ですね」と念を押してくる。加えて、「できるだけ棺に花をいっぱいに入れてほしいんです」と出棺の際に必要なものを含めて合計で「10基ですね」とされ、結果的に喪主の生花代だけで15万円に達するケースもあるという。

 さらに、一連の流れで気になるのは弔問客へのおもてなし。例えば、通夜における「通夜振る舞い」だ。本書によれば、弔問客を3パターンに振り分けるのが必要で、以下の事例を示している。

A)実際に訪れる家族と親戚(30人)
読経が終わるまで着席して、終了後にきちんと食事をとる人たち

B)会社、近隣、友人など(60人)
焼香後にすぐ帰ると予想される一方で、軽く料理をつまんで帰る人たち

C)お手伝いの人たち(10人)
通夜が終わるまで残り、時機をみてAといっしょに食事をとる人たち

 この事例であれば本来、しっかりと食事をとるAとCは人数分を、Bはおつまみ程度に食べることが想定されるため半数となる30人前を目安に用意すればよいという。しかし、売り上げ至上主義の葬儀会社は「100人分を頼まないと足りない」と持ちかけてくるため、注意が必要だという。

見積もりは慎重に。気になるところはとにかく質問する

 一例とはなったが、では、具体的な費用をふまえながらどういった部分に気をつけるべきか。本書では打ち合わせ後に出される「見積書」に注目している。

 注意すべきなのは「一式」という言葉だ。例えば、「祭壇」「棺」をはじめとしたサービスの細かな内訳を示さず、説明を求めるとあろうことか「うちが信用できないのですか?」と逆ギレする担当者もいるという。ただ、突然の不幸に混乱しており、それこそ深夜ともなれば心身ともに疲労がたまり「要点だけでいいです」と折れてしまう遺族も少なくないというが、契約書にサインするまでは、慎重に相手を見きわめるのが重要だ。

 さて、昨今は葬儀の形態もじつに多様化してきた。今回の事例ではあくまでも「最悪のケース」を前提としてみたが、頭を悩ませるのは、葬儀というものが基本的に付加価値で成り立っている部分である。最後の別れは、故人の遺志も尊重した上で決めていきたいところだが、いずれにせよ、残された遺族が納得する形でぜひとも見送ってあげてほしい。

文=カネコシュウヘイ