ツンデレわんこの正体は死神?! テーマは「死」。現役内科医が描く末期患者の未練と克服

文芸・カルチャー

2016/5/2


『優しい死神の飼い方』(知念実希人/光文社文庫)

成仏できず、幽霊になってしまう死者たちの気持ちがわからなくもない。決して楽しい毎日ではないにしても、思い通りにいかないことの多い日々だからこそ、この世に対する未練は数え切れないほどある気がする。だが、死を避けられないのだとしたら、どうせならば、自分の人生に満足し、安らかに死にたい。死を目前に控えた時、人は何を心残りに思うのだろう。この本は、人の残された時間に優しくそっと寄り添おうとする。

現役内科医・知念実希人著『優しい死神の飼い方』(光文社文庫)は、天久鷹央の推理カルテシリーズなどで知られる著者によるミステリー。死期が迫った患者たちが入院するホスピスを舞台としながらも、この物語に死に対する悲愴感はなく、温かさで満ちている。患者たちの葛藤とその克服、それを見守る者たちの優しい存在の数々に胸があつくなる。そして、この物語の主人公が、犬の姿を借りて人間界に現れた「死神」というのも、物語をコミカルに描き出す大きな要因だ。死をテーマとした作品であるはずなのに、「死神」のツンデレさ、愛らしさに、自然と笑みがこぼれてしまう。

古い洋館を改装したホスピス「丘の上病院」に、一匹のゴールデンレトリバーが迷い込んできた。看護師の菜穂に保護され、レオと名付けられたその犬の真の正体は、「死神」。人間に興味を持たず、仕事に励んでいた「死神」が、「我が主様」の力でふとしたことから犬の中に封じ込められ、末期患者の未練を断ち切り、魂を救う任務を担わされているのだった。緩和ケアを専門とするこの病院では、いろんな患者たちがこの世に対する強い未練を抱えている。駆け落ちをしようとした恋人に裏切られた過去を持つ男、殺人容疑で指名手配されている男、画家を目指していたが、ふとしたことで絵が描けなくなり、筆を置いてしまった男…。どうやら彼らの未練を取り除くカギは7年前のとある事件にあるらしい。過去が明かされるにつれ、患者たちは、さらなる大きな事件に見舞われていく。レオは患者たちを救うことができるのか。どうやって彼らの未練を断ち切っていくのだろうか。

患者の生死を多く見てきたであろう現役内科医によるこの作品には、不思議なリアリティがある。患者の病の描写はもちろんのこと、死を前にした患者の感情の揺れ動きも巧み。犬の姿をした「死神」が主人公という突拍子もない設定をいつの間にか自然に当たり前のように受け入れている自分に気づく。

レオは、死後の人間の魂を「我が主様」の元へ導くという「死神」として尊い役回りをしていたのに、ふとしたことから人間の中に交わり、その未練を断ち切るという下等な役回りに左遷されたことを嘆いている。人間というのは感情に振り回される下賤な生き物だと思っていたレオの心は、患者たちと関わっていくなかで変わっていく。そして、クライマックス、自らの利害を顧みず、患者たちのために動こうとするレオの姿がたくましくもあり、愛らしくもある。

「自惚れるな『人間』!お前らは肉体という『仮住まい』を借りて、この世に存在しているに過ぎない。いつその『仮住まい』を返すかはお前達が決めることではない。お前がするべきことは、残された時間の短さを嘆くことなどではなく、その限られた時間の中で精一杯生きることだけだ」

人の生死。運命。抗いようのない終わりの時間が目の前に差し迫った時、人はどうやって自らの人生を充実したものにすればいいのだろうか。ただ恐れるだけではなく、充実した最後を迎えるために、ぜひとも読んでほしい作品。

文=アサトーミナミ