抗がん剤治療ナシ。乳房全摘同時再建手術アリ。 生稲晃子さんの闘病記で知る、女性のがん1位・乳がん治療の今

健康・美容

公開日:2016/5/25


『右胸にありがとう、そしてさようなら 5度の手術と乳房再建1800日』(生稲晃子/光文社)

 2人に1人ががんになる今の時代。がんで亡くなった人、闘病している人の話も日常的によく耳にするようになり、関連書籍も山ほど出版されている。

 それほど身近な病気にもかかわらず、自分ががんに罹るまで他人事のように思いがちなのが、がんの特徴だ。3人に1人が亡くなる病気のため、無意識のうちにあえて考えないようにしている人も多いのだろう。

 がん患者の体験談にもよく、「まさか自分ががんになるなんて」、「私が何か悪いことでもしたの?」といった思いが綴られている。女性の12人に1人が罹るといわれている。乳がんの闘病記『右胸にありがとう、そしてさようなら 5度の手術と乳房再建1800日』(光文社)を出版した生稲晃子さんも、そのひとりだ。

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 区の無料健診を受け忘れ、知人にすすめられた人間ドックを気乗りしないまま受けて見つかった、右胸乳頭裏のがん。いくら「まさか」という思いで悪い想像を打ち消しても、がん告知からはじまった手術、治療、悪性腫瘍の再発という厳しい現実が次々に降りかかる。治療方法が、乳房温存療法から乳房全摘出へと変更が決まったのは、同じ右胸にがんが再再発したときだ。

 どんなに楽観的な女性でも、今日まであった乳房が明日なくなることをそう簡単に受け入れられるものではない。しかし生稲さんには、まだ幼い娘がいる。

私たちの治療法は、確実に命を優先する方法を採用しています。娘さんが成人するまではお母さんが死ぬわけにはいかないでしょう

 担当医のその言葉に、生稲さんは泣き崩れ、はじめて辛い現実を受けとめる覚悟を決める。

覚悟を決めなくては。泣きたいけれど、覚悟を決めなくては。死ぬのではない。生きるためにするのだ。感謝しなければ

 生稲さんが不幸中の幸いだったのは、いい病院といい医師に出会えたことだ。彼女が通院した東京のがん研有明病院は、がん医療における最高の技術を提供している日本屈指の大病院。ここは全国に先駆けて、乳がん全摘と同時に再建もする「乳房全摘同時再建術」を実施していたため、運よくその手術を受けることができたのである。

 がんは、患者の数だけ部位も症状もさまざま。完治できる治療法もまだ確立されていないため、病院と医師がすすめる治療法に応じるか応じないかは、自己判断となる。

 しかし、がんに罹った当事者が、医師の説明を冷静に理解し、自分にとって最善だと思う治療法を判断できるだろうか? 生稲さんも、「聞くのが怖く、あえて追求しなかったこともあった」と記している。

 4年8カ月の闘病生活の間、知識や理解が足りず曖昧だったことを、すべて医師に質問して明らかにした第6章の「ドクターとの対話」は女性必読だ。生稲さんが、放射線療法を受け、抗がん剤治療を受けなかった理由。2014年に、乳房再建手術に健康保険適用が認可されたこと。再建手術を手がける病院として登録しながら、手術未経験で技術力がない施設が全国に300もある事実。日々、進化している乳がんの研究や治療法、乳房再建手術の“今”について知ることができる。

 がんの情報弱者になっていざというとき後悔しないために、健康なときこそ国立がん研究センターなどが公開している正しいがん情報をチェックしておくことが大切なのだ。

文=樺山美夏