SFや異能バトルの原点は聖書にあった!? 聖書が持つ「物語」としての魅力とは?

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公開日:2016/8/24

『あなたの知らない聖書の世界』(天乃聖樹:著、日向たかし:イラスト/総合科学出版)

 深夜アニメを観ていると『モブサイコ100』や『斉木楠雄のΨ難』という作品で、超能力を操る主人公が登場する。アニメに限らずライトノベルなどでも、超能力を含めた異能の力で戦う物語が大人気だ。特殊能力を持たせたほうがキャラクターを動かしやすいというのもあるのだろうが、そのテの作品が昔から延々と作られているのをみれば、自然と「元ネタ」が気になってくる。そしてその起源を辿っていくと、なんと「聖書」に行きつくのだという。

 誰もが知るように「聖書」とはキリスト教の正典であり、その教義が延々と記されているように思われる。しかし『あなたの知らない聖書の世界』(天乃聖樹:著、日向たかし:イラスト/総合科学出版)によれば「あらゆる物語の原型は既に聖書で使い尽くされている」ほど、物語のフルコースなのだという。ゆえに、先ほどの超能力や異能バトルの原型も、聖書の中に存在するということなのである。

 聖書と一口にいうが、聖書とは一冊の本を指すのではない。66冊の本が大全集の形を成したもので、その前半を「旧約聖書」といい、後半を「新約聖書」と呼ぶ。

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 本書では特に最初の『創世記』を「聖書の中でもっともファンタジックで刺激的な本」とし、さらに最終章たる『ヨハネの黙示録』は「最高に恐ろしく、文学作品やサブカルに甚大な影響を及ぼした預言書」としている。このあたりが、さまざまな物語の原点を含んでいるようだ。

 例えば『創世記』の25章から28章において登場する「ヤコブの梯子」。これは天使が地上に降りるために天から架けられた梯子だ。これはSF作品でいう「軌道エレベーター」の原点だという。軌道エレベーターとは、宇宙ステーションと地上の間をケーブルで繋ぎ、そこにエレベーターを作って行き来する建造物。著名なSF作家アーサー・C・クラークは『楽園の泉』という小説で、軌道エレベーターを建造する物語を描いた。日本のアニメでも『超時空世紀オーガス』や『ガンダム Gのレコンギスタ』など、登場した作品は多い。

 そして人類の終末を語った『ヨハネの黙示録』で最も知られているのは、やはり「ハルマゲドン」だろう。これは堕落した人類を滅ぼそうとする神に対し、悪魔率いる人間たちが戦いを挑む最終戦争のことだ。人類の滅亡を描く物語はこれが元ネタであり、映画『アルマゲドン』や平井和正原作の『幻魔大戦』など、細かい引用を含めればキリがないほど多くの作品で使用されている。

 そして超能力や異能バトルネタで外せないのは「モーセ」の存在。『出エジプト記』では神に異能力を与えられたモーセが、イスラエル人を救う活躍が描かれる。エジプトの魔術師たちとの異能バトルや、映画『十戒』で有名な紅海を真っ二つに割ってエジプト軍を退ける奇跡を起こした超人譚だ。他にも治癒能力など多くの異能を操ったイエス・キリストなど、聖書には多才な超能力者たちが登場している。

 また本書にはコラムも掲載されているが、面白かったのは「エルサレム症候群」の件。これは聖地エルサレムを訪れた旅行客が罹る精神病の一種で、「自分は救世主である」などといい始める病気のことだ。治療法は「エルサレムから離脱すること」だそうで、聖書だけでなく聖地の影響力も凄まじいものが感じられる。

 他にも昼ドラもビックリの愛憎劇や英雄が国を救うヒロイックファンタジーなど、聖書には多くの物語が記載されている。「宗教の本だから難しそう」と敬遠していた人も多いと思われるが、実はエンターテインメント性抜群の文学作品なのだ。本書は聖書の物語として楽しめる部分を教えてくれるので、まずはこれで面白そうなエピソードを知り、しかる後に原典を読んでみてはいかがだろうか。

文=木谷誠