血染めの英雄の復讐劇はピュアさも悪意もマシマシ!『食せよ我が心と異形は言う 2』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『食せよ我が心と異形は言う』(縹けいか、WYX2/KADOKAWA)

胸糞の悪くなる輩どもに、非道を極めるかつての英雄――。どこに向かっても絶望しかない『食せよ我が心と異形は言う』(縹けいか、WYX2/KADOKAWA)、待望の第2巻が8月15日に発売された。

10年前、地球に現れた≪異形の天使(グリゴリ)≫なる怪異に立ち向かった6人の少年少女がいた。彼らの活躍によって≪異形の天使≫は姿を消し、やがて6人は英雄として崇められるようになった。だが、その英雄譚は血塗られていた。唯一犠牲になった少女・月白カノは自ら命を賭したのではなく、仲間に裏切られ、生け贄として捧げられていたのだ。その月白がかつての恋人であり、英雄の一人だった黒羽園(くろば・えん)のもとにやってくる。廃人となり、体内に≪異形の天使≫を宿した姿で……。真実を知った黒羽は復讐のために英雄狩りを始め、月白の心を取り戻すカギとなる人類の絶望を集めようとする。

以上が前巻の大まかなあらすじである。暴力、裏切り、喪失という負の連鎖の中、黒羽の真っ黒で真っ直ぐな愛が紡がれていく。本作の魅力は、なんといっても黒羽のピュアな悪逆非道ぶりだ。元英雄たちのクズっぷりを暴き、制裁を加えていくさまのなんと痛快なことよ。だが、黒羽は無実の人間をも敵に回してしまった。元英雄でありながら、いつしか力の矛先を無関係な人間たちにも向けていたのだ。その因果応報であろうか。黒羽が絶望のエネルギーを回収したことで月白は復活するが、英雄の一人・若葉榛(わかば・はる)に彼女の身柄を押さえられてしまい、黒羽も瀕死の状態に陥ってしまう。

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第2巻の序盤は、人類の敵となり瀕死となった黒羽視点ではなく、彼を救おうとする2人の女性視点で描かれる。この2人のやりとりは、本作にそぐわないほど(!?)なんとも愛らしい。ひとりは、月白を裏切った英雄の一人であり、贖罪のために黒羽と月白を救おうとする藤マコト。もうひとりは、月白の体内に宿っていた≪異形の天使≫イーヴァ。月白の心に触れ、もっと世界を知りたいと願ったイーヴァは月白から溢れた絶望のエネルギーによって少女の肉体を獲得し、マコトに協力する。元英雄でありながらほとんど役に立たないヘタレマゾ女のマコトと、マコトをイジり倒す嗜虐趣味のロリっ子・イーヴァのどこかポンコツな掛け合いは、悪意に充ち満ちた本書における一種の清涼剤のよう。2人に看病される黒羽がちょっと羨ましいくらいだ。

さてその黒羽は、2人の看病もむなしく序盤そうそうに命を落としてしまうが、なんとゾンビのような状態となって復活を遂げる。そこから先に待っているのは、前巻以上のバイオレスとサスペンスだ。月白を奪還するため、イーヴァとともに人類に戦争をふっかけ、立ちはだかる者を容赦なく叩きつぶしていく。もちろん、その道のりはたやすいものではない。善意から生まれた強烈な悪意を宿す若葉、新キャラクターとして登場するロシアからの刺客ロマンとユーリエヴナ。彼らが見せる暴力や拷問の描写は吐き気をもよおすほどに痛々しく、えげつないものだが、だからこそ黒羽が見せる敵の悪意を上回るさらなる悪意にカタルシスを感じるはずだ。

果たして、黒羽は月白を取り戻すことができるのか。取り戻したとして、その血に汚れた手で彼女を抱きしめることはできるのか。ハッピーエンドを想像するのは難しいが、それでも何かを期待してしまうのは、やはり黒羽の純粋な愛がそこかしこにちりばめられているからだろう。

文=岩倉大輔