『2.43』スピンオフの短編集!部活に青春を捧げる高校生たちの王道ストーリー

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『空への助走 福蜂工業高校運動部』(壁井ユカコ/集英社)

どこからともなく湧き上がってくる、勝たなければならないという熱い思いと、仲間たちへの嫉妬。焦燥。どこまでも強がり続け、不安を吹き飛ばすように毎日練習を積んだ先に、待っている勝利の喜び。部活動に3年間捧げる高校生たちの姿を見ていると、自分の甘酸っぱい青春時代を思い出してしまうのはなぜなのだろう。

壁井ユカコ著『空への助走 福蜂工業高校運動部』(集英社)は、高校生たちの部活と恋愛を描いた短編集。壁井氏といえば、清陰高校男子バレー部の活躍を描いた『2.43』『2.43 second season』が名高いが、本作はこれらのスピンオフ作品を含む地続きの4つの短編が収録された1冊だ。単行本購入者には、清陰のライバル校として『2.43 second season』にも登場する福峰工業高校バレー部の書き下ろしショートストーリーのプレゼントもあるというから元々のファンは見逃せない。だが、部活動に力を注ぐ高校生たちの青春はまだ壁井氏の作品に触れたことがない人も心掴まれるに違いない。バレー、テニス、陸上、柔道、釣り、写真、映画など、登場する部活は多種多様。それぞれの部活の練習や恋愛模様に、誰もがいつのまにか自分の青春時代を重ねてしまう。

福蜂工業高校バレー部のエースを狙う高杉と、尋慶女子高校テニス部エースで美人かつ勝気な赤緒の絆を描いた「強者の同盟」。生まれて初めて柔道の稽古をサボった福蜂工業高校柔道部主将の長谷を、クラスメイトの平政が半ば強制的に釣り部へと入部させた日々を描く「途中下車の海」。周りの人ばかりが先に進んでいるように見えて嫉妬したり、焦ったり、素直に思いが伝えられずに八つ当たりをしたり…。張り裂けそうな熱情を抱えながら毎日を生きていたあの頃の青臭い自分が否が応でも思い出される。

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なかでも、表題になっている「空への助走」は、青春時代の甘酸っぱさが詰まっていて、読んでいてくすぐったい。明日岡高校陸上部を引退したばかりの涼佳に、突然告白してきた頼りない後輩の柳町。大好きな涼佳を振り向かせたくてちょっかいを出したり、練習に励んだりする柳町の姿はなんと愛らしいことか。涼佳は今まで東京の大学に進学した元陸上部の先輩へ届かない恋心を抱いてきたが、走り高跳びに打ち込む柳町の成長を見つめるうちに少しずつ心が揺れ動いていく。どうしようもなく手のかかる後輩だと思っていた柳町が、とんでもない変貌を遂げていく。そのたくましさに読み手も思わず胸キュン。試合の場面はハラハラさせられる。部活に青春をかける高校生たちの汗と涙。秘めた恋心。ぶつかりあいながら、成長していく姿に胸が熱くなる。

この本に詰まっているのは、王道の青春ストーリー。タイムカプセルを開いたかのように、学生時代の甘酸っぱい記憶が蘇ってくる。部活動や恋に全力投球していたあの頃のこと、思い出してみよう。この本を読めば、あの、恥ずかしくも懐かしい青春時代を追体験できる。物語の登場人物が、大人になった私たちに力をくれるような、そんな気がする1冊。

単行本購入者には『2.43』でも人気の福峰工業男子バレー部の書き下ろしショートストーリーをもれなくプレゼント!!

文=アサトーミナミ