借金で首が回らなくなった男に課せられた仕事とは…? 怖いバナーで話題となった漫画『うなぎ鬼』の原作小説

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

『うなぎ鬼』(高田侑/角川書店)

 ネットサーフィンをしていると、どうにも不愉快な広告を目にすることって、ありませんか? ポインタが端を掠めただけで全画面展開される画像や、予告なく響き渡る音声など、物理攻撃を仕掛けてくるバナーは少なくありません。スマホ向けのサイトだと、スクロールとともに移動してきて、ブラウザの下端に居座るヤツとか。今までに何度、誤タップしたことでしょう。

 一方で、派手なアクションは伴わなくとも、目にした者のメンタルを攻撃してくる広告もあります。例えば、数コマが切り取られた、電子漫画サイトの宣伝とか。がっつり性描写があったり、グロテスクだったり、いかにも悲惨な話だったり。しかし、実は最近、そんな漫画サイトの広告がきっかけで、個人的に原作を購入してしまった作品がありまして…。それが、小説『うなぎ鬼』(高田侑/角川書店)です。

 主人公の倉見は、ギャンブルで抱えた借金の返済に困り、街金で金を調達しようとします。借り入れは断られたものの、そこで出会った「社長」こと千脇が、身請けしてくれることに。それから倉見は借金の取り立て屋として働くことになるのですが、ある日千脇から、別の仕事を言い渡されます。

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 相棒となる富田と一緒に連れていかれたのは、東京・黒牟。ボロ小屋とスクラップが並ぶ異様な雰囲気の先に、目的地の「マルヨシ水産」はありました。指定の場所からマルヨシ水産まで、荷物を運ぶ臨時便を頼みたいと話す千脇。荷物の重さは5、60kg。1往復15万という好条件ながら、「中身は知らなくていい」という、意味有りげな言葉を添えられます。

 鰻の養殖池を有する、マルヨシ水産。熱気と生臭さの中、従業員が池に餌を撒くと、鰻たちは飛沫を上げながら、我先にと奪い合います。異様な光景に恐ろしさを感じる倉見。そしてその表情には、こんなフレーズが重なるのです。

知ってるかい?
うなぎってのはタンパク質なら なんでも喰っちまうんだそうだ……
なんでもだぜ

…と、某電子漫画サイトで無料立ち読みが可能な第1話は、ここまでの展開。皆さん、もう少し続きを知りたいと思いませんか?

 その日の夜、倉見と富田は千脇に頼まれた通り、臨時便の仕事をこなします。問題の荷物はスチロール製の箱に入れられており、それをマルヨシ水産に下ろして、作業は終了。二人は逃げるようにして、昼間よりも一層不気味さを増した、黒牟の街を後にします。

 無事仕事を終えられたことに安堵しながらも、暗い気分の拭えない帰り道。途中、富田はこんなことを言い出します。

「倉見さん、今日の荷物なんだったと思います?」
「あれ、人間ですよ」

 その考えがなかったわけではないものの、荷物の手応えを思い出し、改めて恐ろしくなる倉見。しばらくすると再び、千脇から臨時便の仕事を頼まれます。しかも、今度は倉見ひとりきりで…。

 ページをめくる読者は次々と、嫌な予感に襲われることでしょう。しかし不思議なもので、倉見が追い詰められていく様子を見るのが、途中からどこか快感めいてもくるのです。展開に翻弄されるような趣味の悪い心地よさこそ、このストーリーがホラーの傑作として支持される所以なのでしょう。

 ところで、倉見は作中で、この臨時便の業務と並行して、また別の仕事を手伝うようになります。読み進めていくと段々、その仕事でのできごとについて語られる部分が大きくなるのですが…この伏線は終盤、思わぬ形で回収されることになります。マルヨシで見た鰻の養殖とは、関わるはずのない仕事だったのに――実は、ここがこの作品一番の見どころ。両者を繋いでいたのはあの黒牟の街で、倉見たちが見た貧しさの背景には、現代日本社会の抱える問題が潜んでいたのです。

 エロくて、グロくて、後味最悪。でも読み応えはばっちりです。既に漫画版を読まれた方もぜひ、活字の沼から匂い立つ、この不気味さを味わってみてください。

文=神田はるよ