噛めば噛むほど味が出る“クドカンワールド”を旅する! 思いがけない発見がある名ゼリフの数々

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更新日:2017/2/10

『クドカンの流儀 宮藤官九郎論 名セリフにシビれて』(井上美香/言視舎)

 脚本、舞台演出、映画監督、俳優、ミュージシャン、作詞、作曲、放送作家、濡れ場評論家――どれもジャンルが異なる仕事だ。しかし、これらを一人でこなしている男がいる。そう、宮藤官九郎こと“クドカン”だ。

 彼が作り出す作品のひとつひとつに独特の世界観があり、「何か他の映画やドラマと違うな」という違和感が次第に中毒のような心地よさに変っていくのは、きっと私だけでないはずだ。そんな私と“クドカン”との出会いは、中学校の授業の一環で鑑賞した映画『GO』。当時まだ「在日」という言葉を知らなかった私にまだ見ぬ世界を見せてくれた。その後も映画『ピンポン』を見ては、自分も「I can fly」と声高らかに叫び、『あまちゃん』を見ては、夏ばっぱの深い愛情に涙し、『ゆとりですがなにか』を見ては、「ゆとり世代」だって捨てたもんじゃない! とささやかな勇気をもらった。

 しかし私は「クドカン作品をすべて網羅している!」という根っからのファンではない。代表作といえる『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』は話題となったので大筋は知っているが見ていない(時間があれば見たい)。真の“クドカン”ファンからお叱りを受けてしまいそうだ。けれども、これまでの人生30年、上記のように、要所要所で“クドカン”作品にはとてもお世話になっている。

 そして『クドカンの流儀 宮藤官九郎論 名セリフにシビれて』(井上美香/言視舎)の著者である井上美香氏もクドカン作品の一部に触れてきたひとりなのだそう。「むしろあまり知らないからこそ、書きながら感動したり、思いがけない発見をするはず」と述べている。そんな思いで選定したという“クドカン”の名(迷)言をいくつか紹介しよう。

山路「ただね…果たして、完璧な大人っているのかな?って先生、思います。例えば山じーは来年30です。みんなにとって30歳って言ったら立派な大人だよな。でもね、20年後、自分が30歳になった時、きっとこう思う筈です。『うわー、まだぜんぜん子供だよ』って。『山じーこんな感じだったのかー』って。『彼女いねえ』とか『バイト行きたくねぇ』とか『まだ童貞かよー』とか。『山じーと一緒かよ』とか」
(『ゆとりですがなにか』第10話330頁)

 松坂桃李演じる、小学校教師・山路がホームルームで生徒に話した一言。この言葉には、心が子供のままで身体は大人になってしまっていることへの違和感が込められているようだ。私自身も山路と同じ30歳。小学生・中学生で想像していたころの30歳とは違う。「もっとカッコよく」「もっと裕福に」「もっと余裕に満ちた」自分をイメージしていたものだが…。そして、これから40、50と年齢を重ねてもそれこそ“完璧な大人”とやらにはなれない。だからこそ「今の自分を認め、大人になることを目標に」と考えることができる。この言葉を聞き、そのように感じた。

マコト「だけどタカシさぁ…死ぬなよ」
タカシ「死にますん」
マコト「どっちだよ」
(『池袋ウエストゲートパーク』十手の回、534頁)

 仲間が殺され、敵対するチームに単身乗り込みに行こうとするタカシとそんな彼を心配するマコトのやり取り。緊迫したシチュエーションの中で、あえて漫才のようなテンポのいいギャグを加えるあたりが“クドカン流”と言える。そんなマコトとタカシのやり取りを「やせ我慢」という著者。誰かが何かを耐え忍んでいる「やせ我慢」はイヤなもの。しかし、当事者がそんなシリアスな状況を苦笑してみせることで、緊張が緩み、周囲をシリアスな空気に巻き込まない。そんな相手を思う「気づかい」があるという。緊迫した状況での“クドカン”らしい笑いも、そのように考え、ドラマを見てみると、ひと味違った印象を受けそうだ。

アキ「…(略)…もう走り出した恋の汽車は止まりゃしねえです! もう盛りのついだ、猫背のメスの猿なんです、どうしたらいいべ!」
(『あまちゃん』113回、第2部349頁)

 これぞ迷言! 主人公のアキが、高校生のときから片思いだった種市先輩と晴れて付き合うこととなり、その積もりに積もった恋心を爆発させた一言。著者も本書で述べているように、これがNHKの朝ドラで放送された、何よりもヒロインが言った一言だから驚き。お茶の間の皆さまはどのような思いで、このシーンを見守っていたのだろうか。とにもかくにも、アキのストレートな思いが伝わる、そして頭に残る迷言と言える。

 本書ではこのようなフレーズが90余り収録されており、上記に記載したものはほんの一部。すでに見た作品、見ていない作品の言葉、どれも楽しむことができた。そして、どれも見返したいし、見てみたくなった。

 2019年大河ドラマの脚本に宮藤官九郎氏が決定している。今後もまだまだクドカン節を楽しむことができそうだ。その前に! ひとまず私は『池袋ウエストゲートパーク』のDVDを借りて、骨の髄までクドカンイズムに浸ってみるとしよう。

文=冴島友貴