文芸・カルチャー

76年に一度だけ、君に会える――。ハレー彗星をめぐる、新境地恋愛SF。『月刊天文ガイド』連載作品が単行本化!!

 とてもステキなお話だった。せつなさと爽やかさと、そしてちょっとミステリアスな雰囲気を漂わせる『麻布ハレー』(松久淳、田中渉/誠文堂新光社)は、『月刊天文ガイド』というややマニアックな雑誌に連載されていた小説が単行本化した作品だ。

 そのため、天文学の専門知識がたっぷり詰まっている。この知的好奇心をぞんぶんに満たしてくれる内容に、「恋愛」を絡めたことが本作の最も「ステキ」なところ。本作は「切ない別れ」を繰り返し、「めぐりあい続ける」男女の恋物語だ。

 1910年(明治43年)、日本において天文学が興隆し始めた時代。東京・麻布には国立天文台があった。そこでは76年ぶりに地球に接近する「ハレー彗星」を観測しようと、個性的な天文学者たちが集まっていた。

 若き青年・國善(くによし)は売れない小説家。ある日、下宿先のおかみさんの息子、尋常小学校の二年生・栄(さかえ)が出入りしている麻布の国立天文台を訪れる。そこで出会ったのが晴海という美しくもミステリアスな女性。國善は彼女に淡い恋心を抱くようになる。しかし、國善は「どもり」があり、人前でうまくしゃべれない。また小説家としての限界も感じており、自分に自信がなかった。

 一方、小学生の栄は國善が理解できないような難しい天文学の知識を、麻布天文台の学者たちからスポンジのように吸収していく天才少年。そんな栄を横目に、國善は自分の将来を憂えている。

 しかし晴海との出会いが國善を変えていく。優しくも厳しく、知的な彼女と話し合う内に國善の暗く沈んだ心は、氷を解かすように緩んでいくのだった。

 そしていよいよ、76年に一度のハレー彗星が、地球に接近する。それは、ミステリアスな彼女の真実が明かされるとき。

 2人は、共にハレー彗星を眺めることができるのだろうか?

 本作には様々な要素が詰まっている。「天文学」、「科学」、「恋愛」、舞台が明治時代なので「歴史」、「SF(サイエンス・フィクション)」。そして、とあるきっかけで故郷の早池峰(はやちね)に残る伝承を國善が語る場面が登場するので「民話」の成分も入っている。

 もし本作が、小難しい天文学的な物語に、ちょっと恋愛要素を足しただけのお話だったなら、ハレー彗星すら「名前は聞いたことある気がする」レベルの天文無知な方にとって(私を筆頭に……)、あまり興味の惹かれない内容だっただろう。しかし、そこに「民話」の要素が入り、切ない恋愛を絡めていること。加えてネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、本作はファンタスティックなお話でもある。その多くのエレメントが見事に融合したことで、本作は「星」を題材にした、とても「ステキ」なお話になっているのだ。

「星が綺麗ですね」

 國善と晴海はその言葉を交わし続ける。なんてロマンチックで、なんて壮大な物語なのだろうか。次にハレー彗星が地球に接近するのは2061年らしい。……観られるかな?

文=雨野裾



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