社会

読んだらすぐにネットの履歴を消したくなる…!『超監視社会: 私たちのデータはどこまで見られているのか?』

『超監視社会: 私たちのデータはどこまで見られているのか?』(池村千秋:訳/草思社)

 ジョージ・オーウェルの傑作SF小説『1984』では近未来、監視社会の行き着く果てが描かれる。作中ではビッグ・ブラザーと呼ばれる指導者のもとに統括された政府によって、市民は反政府的な思想を抱いただけで逮捕されてしまうのだ。

『1984』の世界はすぐそこまで来ていると、世界的な暗号研究者であるブルース・シュナイアーは著書『超監視社会: 私たちのデータはどこまで見られているのか?』(池村千秋:訳/草思社)内で述べる。本書を読み進めれば、現代における監視社会の在り方はフィクションを超えるほどに進行していると気づかされるだろう。

 アメリカ国内で監視社会の実態が明るみに出たのは、2012年、アメリカ国家安全保障局(NSA)の元職員、エドワード・スノーデンによる告発がきっかけである。NSAはマイクロソフトやアップル、グーグルといった巨大企業と連携して、国民のインターネットや通話データを傍受し、大量保管していたのだ。

 本書はスノーデンが警鐘を鳴らした米国の監視社会について、専門家の立場から解説していく。そのほとんどが、インターネットや電話をこれまでと同じ感覚で気軽に使用するのが怖くなるような内容ばかりだ。

 たとえば、アメリカ政府が重要なものではないと説明し、NSAに蓄積されていた「メタデータ」についての記述である。メタデータとは「データについてのデータ」であり、コンピュータシステムが稼働する際に付随して発生する無意味なデータだと思われていた(本書では「メールの本文がデータで、送信日時や容量がメタデータだと解説される」)。

 しかし、実際にはメタデータを分析するとかなりの個人情報が明るみに出てしまう。スタンフォード大学が約5000人の被験者を対象にメタデータを分析した実験では、病歴や薬物依存歴、人工妊娠中絶の経験までが第三者に伝わってしまうと判明した。

 現代では企業や政府はあらゆる場所でデータを収集できる。たとえば、インターネット検索エンジンの検索履歴はデータの理想的な宝庫だ。グーグルの元CEO、エリック・シュミットが2010年に残した発言がそれを裏付ける。

「私たちは、あなたがいまどこにいるかを知っている。これまでにどこにいたかも知っている。いまなにを考えているかもだいたい知っている」

 あまりにも大げさなコメントだと思う人もいるだろう。しかし、コンピュータ科学者のラターニャ・スウィーニーの調査によると、アメリカ国民の半分は、市町村、性別、生年月日が判明するだけで一人に特定される。そのうえ、インターネットの検索履歴すら知られてしまったら、本人以上に本人に詳しい個人情報が他者へと渡ってしまうのは間違いないだろう。

 検索エンジンに限らず、クレジットカードやカーナビ、レンタルビデオ店の会員証などありとあらゆる場面で我々は個人データを発生させている。そして、それらのデータが悪用されないという保証はどこにもないのだ。近い将来、倒錯的な思想を抱いていることを秘密にしている人間が次々と告発される可能性もある。テロ対策として始まった監視の手段はいまや、定義を拡大し全ての人間を対象として存続している。

 シュナイアーは現代の超監視社会が市民の政治的自由やプライバシー、安全など多くの権利を脅かしていると主張する。そのうえで、将来的な改善点を具体的に提案していく。原則となるのは「安全とプライバシー」「監視より情報セキュリティーのほうが大切」「透明性の拡大」「監督と責任」「レジリエンス(回復性)をもたせた設計」「すべての人が運命共同体」という6つの概念だ。そして大胆にもシュナイアーはNSAを解体することを呼びかける。すぐに状況を変えることは難しいだろうが、市民一人一人が諦めずに監視へと立ち向かうことが重要なのは間違いない。

 日本でもマイナンバー制度や個人情報保護法の改正など、個人データに関する問題は議論されている。本書が抱く危機感はアメリカだけに留めず、世界中が考えるべきテーマといえるだろう。

文=石塚就一



TOPICS

最新記事

もっと読む

人気記事ランキング

ダ・ヴィンチ×トレインチャンネル

特集

ダ・ヴィンチニュースの最新情報をチェック!

ページの先頭へ