急増する“死後離婚”―「夫と同じ墓に入りたくない」「義実家と縁を切りたい」

恋愛・結婚

公開日:2017/3/24

『死後離婚』(吉川美津子、芹澤健介、中村麻美/洋泉社)

 死後離婚というものをご存じだろうか。これは、読んで字のごとく配偶者の死後に離婚できる制度のことだ。この死後離婚をした夫婦は未来永劫同じ墓に入ることはないし、残った方には(元)配偶者の墓を管理する義務もなければ高齢の義両親の面倒を見る必要もない。配偶者の死後に義実家との縁を完全に断ち切ることができる。ここで思うのが、本当に配偶者が死んでいても離婚は可能なのか、ということだ。そもそも夫婦の一方が先立った場合、離婚届は提出することができなくなるが、法的な婚姻関係はこの時点で解消されたとみなされる。その後、別の者と再婚する場合はともかく、再婚しない場合にも残された当人は法的な独身者(1人戸籍)になるわけではないのだ。つまり、配偶者が死んだ後も義実家との戸籍上の関係は持続するということであり、すなわち義理の親への介護義務・扶養義務もそのまま背負わなければならない。これを解消するためには死後離婚をしなければならないということになる。いわゆる嫁姑の関係も解消することができる死後離婚について、その手続きや費用などを必要書類の記入方法と共に紹介したのが『死後離婚』(吉川美津子、芹澤健介、中村麻美/洋泉社)である。

 死後離婚自体は“姻族関係終了届”というたった1枚の書類を役所に提出するだけで成立となる。これは文字通り姻族関係を終了させるための書類であり、これが受理されれば配偶者の3親等(義理のおじおば・甥姪など)との姻族関係が終了し、赤の他人となることができる。ちなみに、この届出を出すことができるのは残された夫・妻のみであり、更にこれが受理されたとしても、それは元姻族たちには通知されないし、仮に縁切りの意図が露見して彼(女)等から反対されたとしても、自分の一存で提出することができる。つまり、姻族側にいわば“姻族関係終了拒否権”はないのだ。この“姻族関係終了届”の用紙は役所の窓口でもらうことができ、手続きの概要は以下の通りである。所定の欄に<氏名>・<住所>・<本籍>・<死亡した配偶者の名前>などを記載し、あとは印鑑を押して提出するだけ。提出先は、本拠地あるいは現在住んでいる市区町村の窓口(戸籍課や市民課など)に限られるが、届の提出時に必要なのは、戸籍謄本と「配偶者の死亡証明(戸籍謄本など)、印鑑のみ。ちなみに、この書類は提出期限もなく、配偶者の死後であればいつでも提出できるようだ。ただ、マイナーな書類であるため地方では時に担当者さえも知らない場合があるらしいので、その時は戸籍法に基づいた重要書類であることを主張した方が良いだろう。また、たった1枚で姻族との関係をすっぱり切ることができる“姻族関係終了届”だが、一度受理されてしまえば申請した当人でも撤回ができない。つまり、届け出た後に何らかの心境の変化があって「やっぱりもう一度身内としてやり直したい」と思っても、法律上の関係を元に戻すことはできないのだ。一時の衝動で提出してしまうと、取り返しがつかなくなってしまうかもしれないので、そこは慎重さが必要となるだろう。

 さて、この死後離婚だが、法律上はもちろん男女どちらでも行うことができる。しかし、現実に死後離婚を望む人は圧倒的に女性が多い。本書によれば、死後離婚を行う人はほぼ100%女性だという。これは、一般的な平均寿命が女性の方が長いためかもしれないが、そもそも死後離婚という制度に対する意識からして男女差が見られる。どちらも第一声が「こわい」となりがちなのは共通だが、その後男性の場合は「女は……」と話の主体を女性に持って行こうとするのに対し、女性は「そんな手もあるんだ」と納得する傾向が強いという。これは、死後離婚という制度を知らないまでも、潜在的にそういうことを望んでいる傾向が女性に強いという事実の表れでもあるだろう。現在は結婚した時女性が姓を変え、夫の家に入ることが多いため、義実家との軋轢を感じやすいのかもしれない。男性には耳の痛い事実だろうが、嫁姑問題に代表される義実家と妻の折り合いや、それに伴う妻の訴えにあまりに耳を貸さずにいると……将来、万が一自分が先立った時に怖いことになる可能性がある。何があろうと、その時自分は草葉の陰から見守るだけで何もできないのだから、死後離婚を恐れるなら何かできる今のうちに行動を開始するべきかもしれない。

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文=柚兎