ANAの世界最高評価を受けた“サービス品質”は「褒める文化」と職種を超えた社内交流で育む「仲間意識」が作っていた!? 【後編】

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更新日:2017/4/24

『人もチームもすぐ動くANAの教え方』(ANAビジネスソリューション/KADOKAWA)

――安全なフライトのためにクルーとのチームワークは欠かせませんが、毎回、同じスタッフが一緒になるとは限りません。フライトごとに顔ぶれが変わるチームでのコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。

阿南千冬さん(以下、阿南): まず挨拶はとても大切にしています。ANAのCAは何千人もいますので、初対面で一緒にフライトすることが多いんです。最初の挨拶ひとつで雰囲気も変わってきますので、上の立場になればなるほど自分から挨拶をするようにしています。昔は逆で、後輩が先輩や上司を探してご挨拶するように教育された時代もありましたし、今もそうする方はいると思います。しかしANAでは上下関係なく自分から挨拶しましょうという風潮になっていますね。

 仲間を気づかわない人は、お客様も気づかえないというのがANAの考え方なのです。「ANAでは顧客満足のためにどんな取り組みをしているのですか?」と聞かれたら、「社外に目をむける前に、まず社内を見て下さい」と私たちはお伝えするようにしています。気づかいが社内で浸透していることこそ、ANAの特徴だと思います。

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――そのような風土が根づいてきたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

阿南 もともとの社風に加えて縦社会がなくなってきた時代の影響もあると思いますが、社内で“アサーション”という言葉が使われるようになってから大きく変わってきたように思います。チーフパーサーや機長が絶対という時代もありましたが、人間は完璧ではないので、それで事故がなくなるわけではありません。そのためアサーションに取り組むようになり、先輩後輩に関係なく誰でも気づいたことがあれば報告できるようにしましょう、という流れに大きく変わってきたのです。

 たとえば後輩が何か機内の異常に気がついても、もし間違っていたら叱られるのではと思って報告できずにいたら、事故につながるかもしれません。ですから先輩の方から後輩に「気づいたことがあったら何でも言ってね」とお願いし、誰でも何でも報告できるようになって、報告を受けた先輩や上司は感謝を伝える、というサイクルをまわし、気づいたことを言いやすい雰囲気をつくることが大切なのです。

――それもこれもすべてお客様のため、ですね。

阿南 はい。お客様の安全を守ることが第一で、そのためのチームであり、組織であるという考え方なんです。アサーションにいち早く取り組みはじめたのはパイロットが所属する部門で、それが今ではANAグループ全体にも広がっていきましたので、職種や部門・会社を超えた風通しのよさもANAグループ全体にあると思います。

 ANAグループには、いいところを褒める文化もあります。褒められると誰でも嬉しいですよね。特に後輩たちは先輩や上司に褒められた経験が励みになるので、できる限り褒めるようにしています。それを、「自分のことをよく見てくれているんだ」と前向きにとらえてくれれば、何か課題があったとき「ここがよくなかったよね」と耳が痛いようなことを指摘してもすんなり受け入れてくれることが多いですね。褒めるためには、社内の仲間もお客様と同じだという気持ちで、ただ見るだけではなく関心を持ってよく観察することが大切なのです。

――阿南さんから見たANAの魅力とは?

阿南  やはり仲間と、お客様にいいサービスやいいフライトを提供しようという気持ちを共有する風土があるところです。チームで仲間と一緒に頑張ろうと思える機会がとても多い会社なんですね。そういうところがANAグループの社員が自社を好きだと思える理由のひとつだと思います。

――具体的にどういう機会に仲間意識を強く感じるのでしょうか。

阿南  CAは直接お客様と接する仕事ですが、そこまでの過程にコンタクトセンターのオペレーターや営業マン、整備士、グランドスタッフなどさまざまな職種の社員がいます。そういった仲間と交流する機会を会社が積極的につくってくれるんです。創業以来の歴史を学んだり、どのようなANAグループの未来を作りたいかを語り合う研修があり、そこでディスカッションをして、お互いの考え方や目的を共有します。そういった経験をすると、大勢の仲間たちの存在があってはじめて飛行機を一機飛ばし、一日約1000便も飛ばせているのだという感謝の気持ちと、ANAグループの一員であるというロイヤリティが高まります。私たちANAのCAは、そのプロセスを感じながら日々お客様と接しているのです。

 職種を超えてさまざまな部門や会社の仲間と交流することで、こんなにたくさんの人が同じ目的に向かって仕事に関わり、それぞれの任務を果たしているのだと実感できます。そのリレーのバトンがまわってきて、私たちがそのバトンを最後にお客様にお渡しするような気持ちで接しているのです。その気持ちが気づかいにもつながっていくんでしょうね。

【前編】現役ベテランCAに聞いた「ANAの気づかい」 ANA社員はお客様の何を見ているのか?

取材・文=樺山美夏 写真=岡村大輔

ANA社員はどんな本を読んでいるのでしょうか? 聞いてみました。

■『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』
(高野 登/かんき出版)

【コメント】10年以上前ですが、当時話題になっていたこの本を何気なく手に入れ読んだところ、サービスマインドの真髄を突きつけられた想いがしました。豪華な設備や完璧なサービスマニュアルがあったとしてもお客様が喜んでくださるとは限らない。スタッフひとりひとりが「本気」で臨むことや「チームでお客様の満足を創る」など、私の仕事へのヒントを読むたびに貰っています。より高いお客様満足に向けて新人にもキャリアを重ねた方へもお勧めしたい本です。

■『「自分の言葉」をもつ人になる』
(吉元由美/サンマーク出版)

【コメント】日々多くの方と接していますが「自分の伝えたい事を言葉にする難しさ」を感じることがあります。この本の中には表現力を磨く多くのヒントがありました。とりわけ感性を磨く方法を説いてきた著者が「いつも空を見上げてください」と答えるくだりにはハッとさせられました。毎日見ている空に私は神秘さや美しさをきちんと感じているだろうかと自戒をこめて思います。感じたことをアウトプットする大切さも学んだことの1つです。「嬉しい」等の感情を違う言葉でどう表現できるか考えるのは良いレッスンになります。日常の中で自分自身の表現力を磨いていきたいと思える1冊でした。

■『「嫌われる勇気」 自己啓発の源流「アドラー」の教え』
(岸見一郎、古賀史健/ダイヤモンド社)

【コメント】「感動できる自分になるためには、自分の中に感受性がなければならない。感受性というのは自分が充実しなければ出てこない。」というある人の言葉がきっかけで読み始めた1冊です。アドラーが、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と言うように、この本では「対人関係を改善するためのヒント」が多く示されています。実践することで、職場での良好な人間関係の構築とチーム力向上、ひいては「顧客感動」にもつなげることができると思います。

■『心をグッと惹きつける「顧客感動」トレーニング』
(津田妙子/ダイヤモンド社)

【コメント】本の表紙を開いた時、最初に目に飛び込んでた言葉、「お客様を感動させるには、感動できる「あなた」になってください。」に惹かれて読み進めた本です。「顧客満足」を超える「顧客感動」のためには、「個」と「個」の交流が大切であること、感動は「マインド」からしか生まれないことを、事例から納得することができます。また、「感動できる心」をつくるためのマインドとスキルの自己トレーニング法がとても役に立ちます。

■『あなたが創る顧客満足』
(佐藤知恭/日経経済新聞社)

【コメント】この本は、接遇マナーの講師を担当することになった時、これまで感覚で理解していたことを言葉に表現する難しさを感じて読んだ本です。「顧客満足」とはどういうことなのか、そのために必要な仕組みや自分自身のあり方など、基本として知っておきたいことを理論的に学べます。印象に残ったのは、顧客満足の主語は「お客様」であること、また、「お客様が満足」するためには、常に自分自身を高めることが大切であるということです。