「図書館の魔女」シリーズ続編が待望の文庫化! 高田大介著『図書館の魔女 烏の伝言』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『図書館の魔女 烏の伝言』(高田大介/講談社)

本は人を見たこともない世界へいざなってくれるが、こんなにも美しい世界へと連れ出してくれる物語は滅多にない。『図書館の魔女 烏の伝言 上・下』(高田大介/講談社文庫)は、剣でも、魔法でもなく、“言葉”の力で世界を切り拓いていく異世界ファンタジー。前作『図書館の魔女』に続く極上のストーリーだ。

『図書館の魔女』といえば、メフィスト賞受賞の傑作ファンタジー。文庫版全四巻に及ぶ大長編小説は、多くの読書家たちの心を掴んだことで知られるが、本作でその魅力はさらに進化。文化や政治背景など細部にわたるまで物語の世界が丁寧に作り込まれているが、特に言語学を専門とする作者だからこそ描き出せた言語に関する詳細な描写には驚嘆するしかない。気がつけば、物語の世界に耽溺し、別世界を冒険している自分に気づくだろう。

舞台は陰謀渦巻くニザマ自治州クヴァン。道案内の剛力たちは、ニザマの地方官僚の姫君とその近衛兵一行の逃避行を助けていた。しかし、休息の地として頼った港町で、姫は囚われ、兵士たちの多くは命を失うことに。いったい裏切りの売国奴は誰なのか。

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前作同様、本作から新しく出てくる登場人物たちも、皆いきいきと人間味にあふれている。剛力衆と近衛兵、焼き払われた里で出会った謎の少年、姫君、下水路をシマにする浮浪少年の「鼠」たち。それぞれの事情を抱えながらもどこか温かいその姿に、自分自身もその一員になったような気持ちがしてくる。彼らそれぞれの信念とまっすぐに生きる姿は、なんと勇ましく、かっこいいことか。そして、はじめはどこかぎこちなかった一行は、物語が進むにつれて、心を通わせていく。その結ばれていく絆の美しさが、心に染み渡るように温かく感じられるのだ。

特に、物語の中心となる、剛力衆の一員で鳥飼のエゴンの造形には誰もが惹き付けられるに違いない。エゴンは顔に傷持つ強面な男。障害があり、人とうまく言葉を交わすことはできないが、鳥たちとは意思疎通がとれる。言葉が操れないことで、愚鈍な男というレッテルを貼られているのだが、物語が進むにつれて、彼の優れた知性に目を瞠る。言葉というのは「音」だけを示すものではない。音はなくとも、言葉は存在し、人々を救い出していく。

謎が謎を呼ぶ上巻、バラバラだった絵が正しく組み直されていく下巻。壮大なこの物語は、「言葉」や「文字」が重要なファクターとなる正統派ファンタジーであり、私たちをまだ見ぬ世界へと連れ出してくれる。前作を読んだ人も未読の人も、ぜひとも手にとってほしい至高の名作だ。

文=アサトーミナミ