みんなが小泉今日子を目標にし、その“遊び”を見たがった。ミュージシャンも惹きつける小泉今日子の魅力とは?

エンタメ

2017/5/26

 小泉今日子の歴代シングルを3枚組50曲で完全網羅した『コイズミクロニクル~コンプリートシングルベスト 1982-2017~』(ビクターエンタテインメント)。その初回限定盤プレミアムBOXに収録される書籍が『コイズミシングル~小泉今日子と50のシングル物語』。全シングル制作に携わった関係者への総力取材で、小泉今日子の音楽史を紐く全368ページのメイキング本だ。

 今回は、同書で約70人ものミュージシャン、作詞家、作曲家、編曲家、ディレクターなどの証言をまとめ上げ、一つの物語として仕上げたライターの松永良平さんにインタビュー。同書の成立過程や、そこで披露されたエピソードの裏側を聞いた。

――この本の中では、『渚のはいから人魚』というタイトルが、はっぴぃえんどの「はいからはくち」からの引用だったという話など、音楽好きの人が反応しそうな逸話も多く書かれていすね。松永さんが一番驚いたエピソードはなんでしたか?

松永 まず、デビュー曲の『私の16才』が、「四つ打ちのダンスミュージックを作りたかった」という方針のもとに作られていたことです(笑)。この話を初代ディレクターの髙橋隆さんから聞いて、「この本はもっと面白くなるな」という手応えが自分の中にもありました。

――『快盗ルビイ』で、野村義男さんが2小節だけシタールを弾いていたというエピソードも面白かったです。

松永 あのエピソードを掲載できたのは、野村さんのサービス精神のたまものです。僕らも全然知らなかった話でしたが、野村さんが「僕、あの曲で弾いていますよ」と自分から教えてくれて。最高にいいネタをいただきましたね(笑)。

――この話は今まで知られていなかった新事実なんですね。

松永 そうかもしれませんね。野村さんも当時は自分で話す機会もなかったと思います。野村さんの家に、大滝詠一さんから「シタール持ってる?」と電話が掛かってきた……という話も、“ポップス裏の裏”みたいなエピソードで面白かったです。

――『オトコのコ オンナのコ』のコーラスに草彅剛さんが参加していたことも初めて知ったのですが、これは当時は話題になったのでしょうか。

松永 クレジットはされていませんが、声を聞けば分かりますし、今ではわりと知られていた話だと思います。一方でWikipediaに載っていた情報が実は違っていた……ということもあったので、「そこをこの本で直していこう!」というのも一つ目標になりました(笑)。たとえば『Smile Again』のオカリナのフレーズが、桜田淳子さんの『十七の夏』のフレーズと同じ……という話はこの本では否定されています。

――この本の中で藤原ヒロシさんは、小泉さんと「何か一緒にできることがあるのなら、またいつでもやりたい」と話していて、ASA-CHANGさんは、「僕らは小泉さんを目標にしてたんですよ」と話していますね。そうやって一緒に仕事したアーティストを惹き付ける小泉さんの魅力はどこにあると思いますか?

松永 小泉さんが、新しいことをしているミュージシャンと組んで楽曲を作ってきたことは、今の言葉でいうと「フックアップ」ですが、そこには上から目線の感じが全くないんですよ。「一緒に遊んで楽しい人とは面白いことができるはずだ」と小泉さん自身が信じていて、よこしまな下心がないから、声を掛けられたほうも「全力で応えたい」と思うようになるんだと思います。

――ASA-CHANG さんは「小泉さんの遊びをみんな見たかった」ともコメントしていました。小泉さんは音楽活動には、“遊んでいる”ような楽しい雰囲気が見えるんでしょうね。

松永 そうですね。でも、それはすごく高度な遊びで、芸能界や音楽制作の現場で積み重ねてきた経験があるからこそ、できるものだと思います。「きっとこうしたら面白くなる」という感覚とか、アイディアの芽を瞬間的に見つける感覚とかを持っている人が、遊びを真剣に続けた結果、面白い作品ができているのだと感じました。

    松永良平

――また本書では、2000年代の小泉さんの配信シングルも一つ一つ取り上げていますね。

松永 その時代のエピソードは、入れられてよかったと思っています。楽曲に関わってきた人たちも、そこまで詳しく話す機会がなかったと思いますし、お話を伺ってみたら、やはりどのエピソードも面白いことばかりでした。「これは厚めに書いておくべきだな」と考えて構成したことを覚えています。

――98年のシングル『Nobody can, but you』で、インターネットで楽曲を一般公募していたという話も、「いろんなことにいち早くトライしていたんだな」と感心しました。

松永 僕らは後から俯瞰で見ているので、単純にそう感じてしまいますが、35年にわたって音楽活動を続けてきたこと自体が、やはり凄いことなんだと思います。今の小泉さんは女優でもあり、カルチャーの面でもアイコン的な存在ですが、今でもその歌には魅力があるし、そして歌い続けている。その歴史の積み重ね自体がまず凄いことだと感じました。

――そう考えると、中学生の頃に『迷宮のアンドローラ』に夢中になっていた宮藤官九郎さんが、『あまちゃん』と『潮騒のメモリー』で2013年に小泉さんと関わることになる……という流れも、歴史の積み重ねの結果として見えてきますね。

松永 『潮騒のメモリー』のパートは個人的にはいちばん面白かったです。あの曲は、「歌謡曲の王道とは何か」「アイドルとは何か」「曲づくりとは何か」みたいなエッセンスが全部詰まっているんですよね。

――小泉さんが最後に「好きよ 嫌いよ」というフレーズを自分で付け加えたという話は、ディレクターの田村さんから「もうちょっと王道みたいなことを書けば?」と以前にアドバイスされた経験が、そのまま生かされているような話ですよね。

松永 まさにそうでしょうね。大友良英さんとSachiko Mさんという普段アイドル音楽の制作とは極北にいるような人たちが手がけた楽曲である点も含めて、50のシングル物語のクライマックスになる話だなと感じました。

――この本は、全シングルを収録したベスト盤の特典ということで、「この作品で歌手としての小泉さんを知りたい」という新しいファンの人も購入すると思います。そういった人たちにはこの本をどう読んでほしいですか?

松永 知らない人名や固有名詞も出てくると思いますが、一つの物語や映画を見るような感覚で読んでもらいたいです。映画では、誰だか分からない人物が登場しても特に説明はなく、話が進むにつれて「こういう人だったのか」と分かっていくのが普通ですよね。この本でもそのような構成を心がけましたし、そういう書き方のほうが、音楽があまり詳しくない人でも飲み込みやすいんじゃないかな……と思って書きました。

――分からない人名が出てきてもさほど気にせず、CDを聴きながら通して読んでほしいということですね。

松永 そうですね。この本はCDのブックレットですし、曲を聞きながら読むことを前提に作っています。曲作りに関わった人達が様々な努力をしていたことを感じながら、その結果として形になった曲を聞いてもらいたいです。固有名詞について調べながら聞くよりも、一つ一つのシングルが作られていくダイナミックな過程を楽しんでほしいですし、「そうやって曲が生まれるプロセスに自分も関われるようになりたい」と思う人が出てきてほしい。そういう人を励ます本になれたら嬉しいです。

取材・文=古澤誠一郎 写真=内海裕之

 

【前編】50のシングルの誕生秘話が一つの物語に。『コイズミシングル~小泉今日子と50のシングル物語』著者インタビュー