認知症の人への虐待、どうすれば止められるか?

社会

2017/6/16

『鼻めがねという暴力 どうすれば認知症の人への虐待を止められるか』(林田俊弘/harunosora)

 雑貨店や100円ショップなどで売られている、仮装用品の鼻眼鏡。購入や使用機会こそなかなかありませんが、そのコミカルな形状は、多くの人がごぞんじでしょう。でも、この鼻眼鏡が、暴力に用いられるケースがあるとしたら…。あなたはその場面を、想像できますか?

『鼻めがねという暴力 どうすれば認知症の人への虐待を止められるか』(林田俊弘/harunosora)は、都内で6つのグループホームを運営するNPO法人の理事長・林田俊弘氏による著作です。タイトルにある「鼻めがね」は、介護職員から利用者に対しておこなわれる、あざけり・からかいの象徴として引き合いに出されているもの。認知症の症状が見られる利用者に鼻眼鏡を付けさせ、その姿を職員同士で笑い合う――明らかな暴行ではないものの、不適切な行為であることには間違いありませんよね。このように、職員が利用者を馬鹿にする言動が頻繁に見られる施設においては、虐待のリスクが高まっている状況にあると、林田氏は指摘しているのです。

 介護施設の職員は日々、多くのストレスに晒されながら働いています。長時間労働やそれに伴う睡眠不足といった個人の苦しみ。利用者とのコミュニケーションのなかで生まれる苦しみ。そして、職員同士の人間関係という苦しみ。同書ではこうした重層的な問題が、介護の現場における虐待行為に繋がっていくメカニズムについても言及されています。そして林田氏は、現場を担う人材が追い詰められないための予防策が必要であるとして、職員のストレスマネジメントや、問題解決のための提案をおこなっています。幾つかを以下に紹介しますが、多くは介護の現場だけでなく、さまざまな職場において応用できるものでしょう。

■研修の際には、日常を思い出す時間を

 介護職員向けの研修で、講師を務めることもあるという林田氏。熱心にメモを取りながら、自分の話に耳を傾けてくれる参加者をありがたく思う一方で、そういった人でも現場へ戻ると、学んだ内容を活かせていない…という、残念な状況をよく目にするといいます。

 こうした事態を防ぐためには、研修中の記憶と現場での判断を繋げていくことが必要であると、林田氏は指摘しています。自身が実践している具体策として、研修の途中で、普段接している利用者さんの姿を、目をつぶって思い出してもらう時間をつくる…という方法も紹介。自分にとっての“普段の現場”を思い浮かべながら、講義やグループワークに参加してもらうことで、自身のスキルを客観視することにもなるといいます。

■スタッフ面談では「聞く」をメインに

 管理者・主任者といった上席者と、現場を担う職員との個別面談。多くの施設でおこなわれているかと思いますが、しかしその面談、本当に、仕事に活きる内容となっているでしょうか?

 林田氏はこうした面談の際、全体的な会話の量や時間のうち、その7割を職員側が喋る時間にするよう心掛けているとのこと。残りのうち2割で、上席者側が話を促したり、質問を投げかけたり。そして残りの1割をアドバイスの時間に当てているそうですが、「これはなくてもよい場合があります」とまで述べていて…。虐待などのネガティブな話題であっても、職員から主体的に話してくれるよう、とにかく「聞く」姿勢の重要さを説いています。

 そして、「もっともやってはいけないのは、これらの配分が逆になること」とも。皆さんの職場の面談では、いかがでしょうか。

■「言わずにいられないことを放置しない」

 数か月おきの会議の際などに、ストレスを感じた出来事や、うまくいかなかった体験を打ち明け合う場を設けてはと、林田氏は提案しています。この場では、利用者さんの具体的な名前も出してOK。初任者からベテランまで素直な気持ちで話し合えることが大切ですから、年長者や専門職が話の腰を折ったり、上からアドバイスをしたりということはNGです。

 但し、これはあくまで問題解決と、職員のストレスマネジメントのための時間であるということは、忘れないようにしましょう。「こういう場を用意した以上は、利用者さんの陰口を絶対にしない」というルールを、職員間で順守してくださいね。

 いかがでしたか。自身も虐待の現場を見聞きし、それを止められなかったことを、今も悔やんでいるという林田氏。贖罪の1冊から私たちが学ぶことは、決して少なくないはずです。

文=神田はるよ