社会

東京最強セレブ「港区」が抱える裏の顔 東京23区“健康格差”の実態とは?

『東京23区健康格差』(岡島慎二/マイクロマガジン社)

 「人生で大事なものは?」と聞かれたら、読者はなんと答えるだろうか。金、名誉、愛情、自由など、人によって答えは変わるはず。しかしそれらは「生きて」いなければ意味をなさない。さらに言うならば、寝たきり、病気をしがちでは楽しめない。つまり人生とは「健康」ありきなのだ。

 ここまでの内容は『東京23区健康格差』(岡島慎二/マイクロマガジン社)の冒頭の一部を要約したものだ。日本は今、格差社会が叫ばれているが、この格差社会によって「健康」さえも「格差」が生まれ始めているという。

 本書によると、低所得者は高所得者よりも死亡リスクが2倍近くになるそうだ。金や名誉が欲しければ、健康でなければならない。しかし金がなければ、健康にもなれない。これでは負のループが終わらないのではないか。本書はこの事実に着目し、地域別の健康格差の実態に迫っている。

 本書の序章では、日本の平均寿命と健康寿命について迫っている。特にこの「健康寿命」こそ、人生をまっとうするために不可欠な要素といえる。次の第1章では、都道府県及び市区町村別寿命ランキングと、その考察を載せている。全国の市区町村が行う、健康寿命を高めるための取り組みも紹介しており、興味深い内容だった。

 では、なぜ本書のタイトルは『東京23区健康格差』なのだろうか。なぜ第2章以降、東京23区にしぼって健康格差を考察しているのだろうか。

 それは23区内の格差が、全国の地域の格差より、はるかに大きいものだからだ。たしかに日本の地方は疲弊し、東京23区の平均所得を下回る。しかしそれはあくまで「平均」。東京23区内の所得格差は、地方とは比べものにならないほど大きな差が生じており、つまり健康格差も生じている。

 本書はここに注目し、23区内の健康格差が「西高東低」である事実、そして関東沿線ごとに見る健康・不健康な生き方の実態を紹介している。ここからは、本書で紹介している「23区別健康レベル」について、一部の区だけ超要約してご紹介したい。

 

■【港区】最強セレブ区が持っている裏の顔

 港区は言わずと知れた東京最強のセレブ区だが、本書では意外な事実が載せられている。港区は金持ちが多く住んでいるが、年収500万円未満の中流以下も少なからず住む、相当な格差社会。港区が2013年に公表した資料に「港区における75歳以上高齢者を含む2人世帯の生活に関する調査報告書」なるものがある。この調査で興味深いのが「仕事の状況」だ。

 親子世帯で80%以上が「親が仕事をしていない」のは仕方ないにしても、子どもの職業の約18%が「非正規社員」、さらに約34%が「無職」だったのだ。同調査では「経済状況の感じ方」という項目もあり、約26%が生活の苦しさを感じているとのこと。「税金」、「家賃・住宅ローン」、「光熱費」、「医療費・通院費」の順に家計の負担を感じているという。

 著者は「生活がギリギリなので、多少体の調子が悪くても病院に行かず、なるべく医療費を抑えているのでは」と考察。これは生活困窮者によくみられるケースだそうだ。また、港区には独居老人が約1万2000人いるという推測もしており、今後港区内の健康格差がますます進むと予見している。

 

■【台東区】高齢者ばかりの都心の限界集落

 浅草という一大観光スポットを抱える台東区。一見華やかな街だが、台東区の健康格差も激しい。区内の人口に占める65歳以上の割合は24.2%。これは23区中2位で、年間の死亡率に至っては10.4%で23区中1位だ。さらに65歳健康寿命も、男女共に23区中ワースト3に入っている。この最大の要因は、台東区北東部の山谷地区で暮らす、生活が困窮した高齢者たちにある。

 山谷地区は、大阪府のあいりん地区に並ぶ日本有数のドヤ街だ。ドヤ街とは激安簡易宿泊所のこと。関東大震災後や戦後に職を求める人が集まったり、高度成長期に建設工事や道路工事に従事する労働者が宿泊したり、そういった過去が山谷地区をドヤ街として認知させた。今でも日雇い労働者が暮らしているものの、高齢化が進み、もはや働かずに年金や生活保護で暮らす人も多く、道端に段ボールを敷いて寝るホームレスもいる。

 高齢化と貧困化は深刻な問題で、山谷の中心地「清川2丁目」の高齢化率は46.7%。もはや限界集落レベルの数値だ。劣悪な食生活、住環境、労働環境を余儀なくされ、健康を失い、介護を必要とし、なかには人生に絶望して自殺する者も。著者は、台東区にこそ生活困窮者向けの施設を設けるべきと主張している。

 

■【足立区】最強不健康区からの脱却なるか?

 「東京23区内の格差」と聞いて、足立区を思い浮かべてしまった読者も多いだろう。著者は足立区について以下のように述べている。

 足立区は昔、散々「治安が悪い」と喧伝されたので、人々が寄り付きにくい、本当に危険な街になってしまった。人間と同じで、「お前はダメなヤツだ!」とずっと言われ続けたら、ロクなヤツにならないのと同じである。

 とは言いつつも、最近は都心のベットタウンとして見直されたり、区の中心地「北千住」が「住みたい街ランキング」の上位に選ばれたり、色々改善しつつある足立区。しかし依然として、刑法犯認知件数、平均年収、子どもの学力、大学進学率が23区でワースト1位。健康面の項目もすべて下から数えた方が早く、「23区内の格差」という面において、足立区はかなり下層に位置しているようだ。

 著者は貧困家庭の子ども健康についても述べており、食生活に起因する面が大きいとしている。貧困家庭のなかには、子どもに数百円を渡し、それで好きなものを買わせて食べさせている親が存在する。数百円あれば工夫次第でバランスの良い食事が作れるのに、それをしないのは、親が余裕を失い、生活におけるモチベーションを欠いている「相対的貧困」の状態に陥っているそうだ。相対的貧困とは、普通とされる暮らしをするのが難しい状況を指し、積極的に生きていく上で必要なものを自ら遠ざけてしまうこと。

 足立区が区民の健康を取り戻すには、貧困家庭の支援をしつつ、生活に後ろ向きになっている保護者に「貧しくても楽しい生活ができる」と意識させることが必要ではないか、弱者が弱者と思わない社会を作るべきではないかと述べている。

 ここまで都内3区の「健康格差」をご紹介した。本記事のシメとして、残り20区の「健康格差」を一言ずつご紹介して終わりにしたい。

【千代田区】 庶民が金持ちに“ぶら下がる”健康区
【中央区】  ステータスは高いが健康面には不安も
【新宿区】  男性の健康に問題アリの孤独な街
【文京区】  我関せずで健康に突き進む区民たち
【墨田区】  みんなで「がん対策」に全力投球
【江東区】  多子高齢化で難しい健康の舵取り
【品川区】  独自のセンスを発揮する健康の穴場
【目黒区】  ウーマンリブな街の落とし穴
【大田区】  貧乏人に優しくないマンモス区
【世田谷区】 健康になれるかは自分次第の街
【渋谷区】  刺激が盛りだくさんの都会的健康革命
【中野区】  働かない若者と高齢者
【杉並区】  安住の地になれない長寿区のジレンマ
【豊島区】  「天国に一番近い街」の逆襲
【北区】   健康になる気が感じられない不良な街
【荒川区】  働き盛りほど危ない不健康な環境
【板橋区】  医療・介護の充実が寿命に関係しない不思議
【練馬区】  「田舎の方が長生きできる」を地でいく
【葛飾区】  健康を過信する高齢者の医者嫌い
【江戸川区】 取り戻すべきは体より心の健康

文=いのうえゆきひろ

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