アヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞した『夜明け告げるルーのうた』―その秘密は斬新な映像表現を可能にした技術にあり!!

マンガ

公開日:2017/7/19

『夜明け告げるルーのうた アートブック』(一迅社)

 昨年あたりから劇場アニメ作品の興行成績が好調で、海外からの評価も高い。そんな中、輝かしい栄誉が日本のアニメ映画に与えられた。2017年5月19日に公開され、現在も上映中の『夜明け告げるルーのうた』が、「アヌシー国際アニメーション映画祭」長編部門のグランプリにあたるクリスタル賞を受賞したのだ。

「アヌシー国際アニメーション映画祭」とは、元々フランスの「カンヌ国際映画祭」の一部門であったが1960年に独立する形で創設された、世界最大規模のアニメーション映画祭。そしてその長い歴史の中、グランプリを獲得した日本の作品は本作を含めて3作品しかない。まさしく日本を代表する作品となったわけだが、その魅力はどこにあるのか。『夜明け告げるルーのうた アートブック』(一迅社)を読んでいると、理屈抜きにその素晴らしさが伝わってくる。

 まずは簡単にストーリーを整理しておこう。主人公のカイは寂れた港町・日無町に住む中学生。彼は音楽が好きだったが、その気持ちを素直に表すことができず、クラスメイトの遊歩や国夫からバンドに誘われても参加に消極的。そんな時、カイの奏でる音楽に惹かれて、人魚の少女・ルーが姿を現す。彼女との出会いによって、カイも以前より積極的に音楽に取り組むようになるが、町の祭りでルーの存在が多くの人に知られることに。日無町は人魚容認派と否定派の思惑が入り乱れ、それが大きな騒動に発展していく──。

advertisement

『けいおん!』など多くの人気作を手がけた脚本家・吉田玲子氏のシナリオはもちろん、この映画ではカラフルな色彩や斬新な映像表現など、監督・湯浅政明氏の手腕が存分に発揮されている。それを可能とするためには、やはりスタッフが監督の持つイメージを共有していなければならない。そこでまず用いられるのが、いわゆる「イメージボード」というものである。監督がどのような世界観を持っているのか、それをイメージボードで正確にスタッフへ伝えることこそ、ブレない作品の構築には必要不可欠。本書では湯浅監督によって描き起こされたイメージボードが多数掲載されている。

(C)2017 ルー製作委員会(『夜明け告げるルーのうた アートブック』P30-31より)

 本書のインタビューで監督は「水の表現には特に力を入れました」と語っているが、イメージボードでもトコロテンのように形を変える水の様子が軽やかに描かれており、これを見ればスタッフも監督がどういうイメージで水を表現したいかが誤解なく理解できたはずだ。

 そしてやはりキャラクターそのものの魅力も欠かせまい。独特のタッチで描かれるキャラクターが湯浅監督作品の味であるが、本作もそこはしっかり押さえている。キャラクター原案を担当した漫画家・ねむようこ氏のイラストが、実によい感じで映画の世界観にマッチしていた。

(C)2017 ルー製作委員会(『夜明け告げるルーのうた アートブック』P50-51より)

 そしてこれらの要素を監督は、斬新な映像表現によってひとつの作品に昇華してみせた。どのような手法で映像が作られたのかといえば、それは「フラッシュアニメーション」である。これはアドビシステムズが開発した「Adobe Flash」という規格で描かれたアニメーションを指し、描いたものを自在に動かしたり変形させたりすることが可能という。本書インタビューで監督は「作画枚数が増えることへの負担が、通常のアニメより重くない」のが利点と話す。通常のアニメではひとつのシーンに複数のスタッフが関わることが多いが、フラッシュならひとりのスタッフで撮影や仕上げまで行える。ゆえにひとつひとつの作業に監督の目も行き届き、イメージ通りの演出が実現できたということなのだ。

 そういえば以前、湯浅監督にインタビューする機会があったのだが、当時もフラッシュに関して同じことを話していた。その際「ファミリー向けの作品を作っていきたい」ということも述べていたが、なるほどあれは『夜明け告げるルーのうた』の伏線だったのかと今にして思う。フラッシュの技術を高い次元に昇華し、「クリスタル賞」という大輪の花を咲かせた湯浅監督。今はただ「おめでとうございます」の一語しかないのである。

文=木谷誠