某テレビ局は末期的状態だった!? 元祖「物言う投資家」村上世彰氏が明かす、上場企業の問題点と改善点
更新日:2021/1/20
若いころからアクティブで存在感があり、少々やんちゃにも見えた人物が老齢を迎え白髪を渋くキメながら、往年の闘志やスキルをキラッと輝かせる瞬間に筆者は感動する。筆者にとっては、ギタリストのエリック・クラプトンがその好例だ。
そして2016年7月27日、偶然チャンネルを合わせたNHK『クローズアップ現代+』に登場していた人物を見た瞬間、筆者はクラプトンと同じ「渋み」を感じたのである。その人物が『生涯投資家』(文藝春秋)の著者、村上世彰(むらかみよしあき)氏だ。
画面に登場したのは、短く切りそろえた白髪とひげにおしゃれなメガネという、ダンディな村上氏だった。2006年にニッポン放送株式のインサイダー取引の容疑で逮捕されるまでの間、テレビでよく見かけた“野心に燃えてギラついた”村上氏とはまったく別の顔がそこにはあった。
おそらく2000年代当時、株式のプロたちから見える村上氏の表情は別にしても、筆者を含む多くの一般的な株素人たちは、村上氏から放たれる独特のギラつきを、守銭奴的なネガティブさとして感じ取っていたに違いない。しかし本書を読むと、それが大きな誤解だったことがよくわかるのである。
村上氏と言えば「物言う株主」の元祖的な存在である。本書の目的は、なぜ村上氏が「物を言ってきたのか」、その思いをメディア等の圧力や編集といったリスクを避け、正確に伝えることにある。
本書には、これまで村上氏が物を言ってきた企業がいくつも登場する。中でも詳述されている実例として、逮捕にも関係したニッポン放送株の問題のポイントを紹介しよう。
本書を読んで驚いたのは、2001年当時のフジサンケイグループのいびつな構造だ。ラジオ局のニッポン放送が、テレビ局のフジテレビの親会社だったのだ。投資家目線で言うなら、割安なニッポン放送株を買い占めれば、フジテレビや産経新聞ほか、グループを牛耳ることも可能な構造であり、その危険性を村上氏はこう指摘する。
特定の意図を持った人物が買収に乗り出せば、ラジオ、テレビ、新聞の三つの大メディアが簡単に乗っ取られてしまうリスクは明らかだ。
それなのに、おかしいと思わない、もしくは危機感を覚えない経営陣も、このいびつな状況に対して具体的なアクションを起こさない市場も、私には理解できなかった。
こうして「物言う投資家」はフジサンケイグループに対して、孤軍奮闘、健全化を求める。本件を一例に、村上氏の一見、自己利益優先主義と思われがちだった言動の裏には、上場企業の健全化や日本企業の国際競争力の促進への思いがあったことがわかるのである。
本書ではほかにも、村上氏が投資をする際に基準としていること、日本の上場企業が抱える問題点とその解決策・アドバイス、株式会社日本という発想に基づく日本への提言、逮捕後から現在までの歩みなどが詳述されている。
さて、冒頭の話に戻ろう。クラプトンはドラッグ、そして村上氏にはインサイダー取引という罪を犯した(もっとも本書の言い分を読むと、村上氏の罪への印象もやや変わる)。しかし2人の現在の姿はまさに、「いい年の取り方」のお手本のように筆者には見えるのである。
経営者としてスカウトされたことも多かったという村上氏。しかし自己適正を知る村上氏は、生涯投資家を貫く。こうしたくだりは、株に縁のない人にとっては「生き方バイブル」としての使い方もできるだろう。そしてもちろん株に関心がある人、これからやってみたいと思っている人にとって本書はメンターとして、大きな影響を与えてくれる一冊となるに違いない。
文=町田光
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