笑えて泣けて役に立つ! 愛する夫のために生み出された、味も見た目も美味しい介護食ストーリー

暮らし

2017/8/4

『希望のごはん 夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー』(クリコ/日経BP社)

 身内が病気になり、食事制限が厳しくなると、お医者さんの食事へのアドバイスがあまり使えないこと、意外に本すらないことを痛感する。一応基準や一覧が書かれたリストはあるのだが、レシピを聞けるわけではないし、リストにない食材、メニューについてはほぼ明確な答えが返ってこない。もちろん、生きるために食べていくことは可能だが、家族が病気で苦しんでいる時、少しでも美味しいものを食べてほしいと感じるのは当然のことだろう。これは、病気の種類は違えど、そういった経験のある多くの人たちの共通の思いだと思う。

 しかし、誰もが料理が得意なわけではない。思っていても、限られた中での工夫の仕方が分からない、という人も多いだろう。そんな人に、特に噛むことができない家族を持つ人に、ぜひ読んでほしい本がある。『希望のごはん 夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー』(クリコ/日経BP社)だ。著者のクリコさんは、料理研究家。そしてこの夫婦は超がつくバカップルで、日々を楽しくすごしていた。だが、ある日突然、夫のアキオさんが口腔底がんを患ってしまい、噛むことができなくなった。ここから、クリコさんの噛まずに食べられる「アキオごはん」作りが始まったのだ。

 料理は得意だったクリコさんも、介護食作りは初めて。いくら大好きとはいえ、イライラが爆発してしまったこともあったそう。しかし「介護をする者として、介護されるひとの実際の状態をリアルに想像し、知ろうとすることが実はとても大切」だと気付いてからは、変わった。どんなふうにしたら喜んでくれるかと考え、作るのが楽しくなったと書かれている。そして“ふわふわシート肉”や“冷凍野菜ピュレcube”など、「アキオごはん」を美味しくするためのアイテムを次々と編み出していった。

■アキオさんが大好きだったクリームシチューをと作られた「流動食クリームシチュー」


 細かく刻んだ野菜をじっくり煮込み、鮭は柔らかくしっとりしているハラスを、焼きすぎて硬くならないよう細心の注意を払って使用している。このクリームシチューの成功で、すべてをミキサーにかける、という方法から脱出できたそうだ。

■ふわふわシート肉を使用した、「ふわふわ鶏シート肉のバンバンジー」


 ふわふわシート肉は、ひき肉に大和芋や豆腐を加えてミキサーにかけ、ラップの上に板状に伸ばして電子レンジで加熱したもの。これを思いついたことで肉の形が作れるようになり、見た目も食欲をそそる、原型のあるもののバリエーションがぐっと増えた。介護食とは思えないオシャレなメニューだ。

■アキオさんの体重を増やすために、デザートは毎食!


 手術前より7キロも減ってしまったアキオさんの体重を戻すべく、クリコさんはアキオさんの食事に毎食デザートをつけることにしたそうだ。もちろん、デザートにもこだわりが詰まっている。写真の「イチゴのムース」は、イチゴや生クリームをミキサーにかけ、介護食用のゲル化剤を使って作ったもの。これを使うことで固める時間が大幅に短縮でき、毎食デザートを作る、という課題をクリアできたのだとか。

 本書には、他にも「アキオごはん」のレシピが多数掲載されているが、どれも介護食には見えない美味しそうなものばかり。また、6章では、前半では書かれなかった追い詰められていた現実や、情報のなさについても語られている。これには強く共感した。現在は、以前に比べると介護食レシピも充実してきており、大型書店に行けばコーナーが作ってあることも多い。また、離乳食のレシピ本が介護食に使えることも分かったそう。しかし、まだまだ満足いくほどは充実していないのが現状だ。

 一度は持ち直したアキオさんも、今はもう亡くなってしまっている。しかし、2人は最後までお互いの大切さを見失うことのない、愛すべきバカップルだった。クリコさんは、愛するアキオさんのために考えたこのレシピを、今悩み戦っている人に知ってほしいと、本書の出版に踏み切ったそうだ。

 この『希望のごはん 夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー』は、きっと多くの噛めなくなった人たちを、そしてその家族を、救ってくれるだろうと思う。少しでも多くの人たちの目にとまることを願っている。

文=月乃雫