あの超有名なメーカーが「エロゲー」を作っていた!? 「エロゲー」が世間にナニをもたらしたか

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公開日:2017/8/10

『エロゲー文化研究概論 増補改訂版』(宮本直毅/総合科学出版)

 人間というもの、男がいて女がいる。見知らぬ男女が惹かれあえば、次の展開は本能が導いてくれるものだ。早い話が「SEX」のことで、本来は種族繁栄のための行為なのだが、人はその最中に訪れる「絶頂感」に快楽を覚え、しばしば「種の保存」は二の次となる傾向がある。こうして生殖欲求は「色欲」、転じて「エロ」というある種の「娯楽」へと展開し、「張形」や「春画」などのエログッズが古くから生み出されてきた。

 そして新たなメディアが誕生すれば、それに対応した「エロ」商品が登場するのは自然の流れ。ビデオデッキの普及には「アダルトビデオ」の存在が欠かせなかったように、PC(パーソナルコンピュータ)にも同様のものが存在する。それこそが「エロゲー」だ。

 そもそも「エロゲー」が何の略かといえば、ズバリ「エロいゲーム」だ。『エロゲー文化研究概論 増補改訂版』(宮本直毅/総合科学出版)では、エロゲーの始まりから現在に至るまでの経緯を、さまざまな角度から解説している。

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 先だってPCの商品としてエロゲーを挙げたが、厳密には「エロいゲーム」全般がそうだといえる。本書でも電子ゲーム以外の「アナログなエロゲー」として、「野球拳」などの脱衣ゲームや「おいしゃさんごっこ」といったごっこ遊びの存在を指摘。以降、PCが登場してゲームが遊ばれるようになり、その過程でPCのエロゲーが誕生したというわけだ。

 ゆえにその黎明期、現在では多くの人が知るメジャーなメーカーがエロゲーを作っていた事実も。有名なところでは『ナイトライフ』(1982年4月)、『団地妻の誘惑』(1983年6月)、『オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか』(1984年11月)の3本は、俗に「光栄アダルト三部作」と呼ばれる。ここでいう「光栄」とは現「コーエーテクモゲームス」のこと。そう、あの「信長の野望」シリーズや「無双」シリーズで知られるメーカーである。また『マリちゃん危機一髪』(1983年2月)や『ロリータ・シンドローム』(1983年10月)を発売した「エニックス」は現「スクウェア・エニックス」で、「ドラクエ」シリーズなど、もはや細かい説明は不要であろう。

 メーカーがそうであるならば、エロゲー出身のクリエイターも多く存在するであろうことは容易に想像できる。『魔法少女まどか☆マギカ』などの脚本を手がけた虚淵玄氏が所属する「ニトロプラス」という会社は、主にエロゲーを製作するゲームメーカーだ。氏も『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』『沙耶の唄』などの作品に参加している。シナリオライターでは他にも『冴えない彼女の育てかた』の丸戸史明氏や『Angel Beats!』の麻枝准氏などがエロゲー畑の人材だ。原画関連では『涼宮ハルヒの憂鬱』などの挿絵を描いた、いとうのいぢ氏や秋田県産の米「あきたこまち」の米袋に美少女キャラクターを描いた西又葵氏あたりが著名なのでは。

 これらのケースはエロゲーが一般に影響を及ぼした「光」の部分だが、光があれば当然「陰」もある。1986年9月に発売された『177』というエロゲーが国会で有害ソフトとして取り上げられ、販売停止に追い込まれた。タイトルの『177』は刑法177条の「強姦罪」を意味し、女性を追いかけて襲うという内容が問題視されたのだ。近年でも『レイプレイ』というタイトルが海外で問題となったほか、1999年に成立した「児童ポルノ法」も、行き過ぎたアダルトコンテンツに対するカウンターであるといえなくもない。

 古今東西、いつの世も「エロ」は日陰の存在、つまり「アングラ」の世界だ。出る杭はすぐに打たれ、規制の波は容赦なく関係者たちに襲いくる。しかし、断言しよう。「エロ」は絶対になくならない、と。エロゲーも今後はVRなど新たなメディアで展開していくだろうし、形を変えながら作り続けられるはず。エロの執念は規制の圧力を雑草のごとく耐え抜き、その花をひっそりと咲かせてゆくのである。

文=木谷誠