「インフルエンザ」に「拒食症」…。検索データは医療の質の向上に役立つか?

社会

2017/8/24

『みんなの検索が医療を変える――医療クラウドへの招待』(イラド・ヨム=トフ/NTT出版)

 私たちは病気の疑いがあるとき、まず何をするだろうか。20年前なら、かかりつけの医師に診てもらっただろう。しかし今なら、手元のスマートフォンに症状を入力するのではないだろうか。画面に疑わしい病名が出てくるので、心づもりや治療のある程度の見通しを持って医者にかかった経験があるのは筆者だけではないだろう。

 治療する側が、こうした私たちの検索データを活用することで、医療従事者に医療の質向上を勧めるのが、『みんなの検索が医療を変える――医療クラウドへの招待』(イラド・ヨム=トフ/NTT出版)だ。検索ワードを収集解析したり、どんな病気にどんな人が検索をかけているのかを分析したりすることで、病気への新しい治療法や予防法を見つけられるのではないかという内容だ。読者対象は医療関係者だが、私たち一般人にもおもしろい一冊となっている。

検索データは私たちそのもの

 私たちは一日に7回から8回の検索を行う。わずか数語と思うかもしれない。しかし、実はこのデジタルデータがリアルな私たちの姿を見せている。例えば台風だ。データ上から、台風情報を検索した人が多い地域を調べると、そこが台風の通った地域と同じであることがわかった。データがリアルを映し出したのだ。これは当たり前のように思えるが、データを読み取るとは、単純に言えば、こうした考え方をいう。この考え方で、検索データを見てみると、どの病名にどんな傾向(年齢、性別、生活パターンなど)の人が集まっているのかが見えてくるというわけだ。

「インフルエンザ」

 医療分野での試みの一例は、カナダで2006年から行われているインフルエンザの流行調査だ。「インフル」または「インフル 症状」と検索した人の数を調査したところ、公衆衛生局が医師たちから集めたデータや、医療機関への受診記録と、優れた相関があることが徐々にわかってきている。

 だから何なのだというところではあり、実際に私たちが知りたいのは、どの型のインフルエンザが流行するか、あと何日で流行は終息するのかといった具体的な情報だろう。しかし、これらがわかるようになるかは残念ながら未知数。医療へのデータ活用はまだまだ入り口といった感が強く、わかりやすい結論はまだ出ていない。だからこそ、進む方向は、私たちのアイデア次第であり目が離せない。次は、検索データが病の悪化を加速させてしまう例だ。

「拒食症」

 拒食症は死亡にも至る深刻な病だが、恐ろしいことに世の中には拒食症応援サイトなるものがある。これは、拒食はライフスタイルであり病気ではない、というスタンスの情報共有サイトだ。サイトには、食品のカロリー情報や、容姿の写真投稿、一緒に食事をしている親に食べているように見せかける方法などというのも載っているようだ。ここに集まってくるのは、主に拒食症の患者さんや、摂食に関心のある人たちで、現実の世界で出会う機会のない人同士の交流が行われる。自分と似た思考の人々から共感を得ることで、自らの考えをさらに正しいと思い込み、不必要な摂食に拍車をかけてしまう恐れがあるという。

 また、応援ではなく、元患者の回復記録や、回復をサポートするというスタンスのサイトにも注意が必要だ。なぜかというと、サイトにつけるタグは、応援サイトと同じ言葉である可能性が高いからだ。例えばこんなふうに。回復した人が「自分の体を愛して! すべての患者を助けたい!」と回復前の自分の写真を投稿する。投稿を多くの拒食症患者に見てもらいたいと思ったら、拒食症患者が積極的に検索するタグと類似させるのが唯一の方法というわけだ。こうした事態が、結果として病の悪化を後押しする可能性があるのだという。

 こうしたサイトは規制をするなどの措置が必要で、データを野放しにはできない。また、良い方向にデータを活用するには、かつては拒食症だったけれど今はそうでない人たちの傾向に注目していく必要がある。本書は慎重に言葉を選んで書かれているので、大きな結論はないが、今後の医療と私たちのデータとリアル、三者関係のさまざまな可能性を考えさせてくれる。

文=奥みんす