いま注目のアメコミはこれ!——女流漫画家が生み出した「超現実」がついに邦訳化

マンガ

公開日:2018/1/16

 ヒューゴー賞や英国幻想文学大賞を受賞したほか2年連続アイズナー賞候補入りを果たし、話題となっているコミック作品『モンストレス』(マージョリー・リュウ:著、サナ・タケダ:画、椎名ゆかり:訳/ G-NOVELS:発行、誠文堂新光社:発売)。

 本作品の作者は中国系アメリカ人のリュウ氏で、画は日本人のタケダ氏であることから、日本マンガとアメコミが融合した作品と称されているが、実際には、日米以外の要素もふんだんに織り込まれている。本稿では、待望の邦訳化がなされたこの話題のコミックの注目ポイントを紹介していきたい。

■現実を大きく超越した「ハイファンタジー」の世界観

 最も注目すべきポイントは、なんといってもこの現実から大きくかけ離れた、いわゆる「ハイファンタジー」感だろう。この物語の中心となる世界は、伝説上のモンスターや獣人、人間が暮らす独特の世界だ。長く続いた戦争でなんとか生き残った主人公の少女マイカ・ハーフウルフは自身の記憶と心の中に潜在する謎を追求して旅に出る。旅の道中で起こるさまざまな出来事は、常に読者の期待をいい意味で裏切ることになるだろう。とにかく何もかもが異次元なのである。この異世界を緻密に設計した作者リュウ氏と繊細な筆運びで描写したタケダ氏には思わず脱帽だ。

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■作中に込められた「人種差別」と「女性問題」に対する作者の思い

 本作品の世界観は現実から大きくかけ離れているにもかかわらず、そこに込められたメッセージはいまだにこの現実世界にはびこる諸問題について考えさせられるものとなっている。というのは、この物語の世界を構成するもうひとつの要素が、それぞれの「種」の間の軋轢や争いであるということにある。人間、伝説上のモンスター、獣人が共存する世界で繰り広げられる、女性を主人公としたこの物語は、どこか現実世界の諸問題をうまくとらえているようで絶妙だ。

 一方では、現実からはるかにかけ離れているという意味で「超現実」であり、他方では、ズバリ現実を言い当てているという意味で「超現実」な世界観の本作品を思う存分堪能してみてはいかがだろうか。

文=ムラカミ ハヤト