橘ケンチと三浦しをんがファン100名と『舟を編む』を語り合う――たちばな書店presents「読後会」レポート
更新日:2019/2/4
橘ケンチ&三浦しをん イベント後インタビュー
――参加者の方から、鋭い意見が、活発に出ていましたね。
三浦 素晴らしかったですね。みなさん、自分の思いをそれぞれ話してくださって……いろんな解釈をしてくださるんだなあと、聞いていてとても楽しかったです。
橘 「いかにしゃべってもらうか」をずっと考えてきたので、本当によかったなと思いましたね。
――最初から座席を、「馬締が恋愛対象になる派」「ならない派」に分けてあったことも意見が出しやすい一因だったように思います。
橘 一人で来た人が話しやすくなる雰囲気をどう作るか……隣の人が自分と同じ価値観なんだなということが1つあれば、雰囲気もほぐれるかなと思いました。
三浦 休憩時間には、おしゃべりしている声も聞こえてきましたよね。
橘 空間や雰囲気をプロデュースしたかったので、うれしかったです!
――その考え方は、やはりアーティストでいらっしゃるからこそ、という感じがしますね。
三浦 私もそう思いました。
橘 LDHは……盛り上げが命なので(笑)。
三浦 こういったイベントは一方通行になってしまいがちだと思うんですが、ちゃんと応答があるのがとてもいいですよね。お客さん同士でも通じるものがあった。コンサートなどをずっとやっていらっしゃるから、そういうことがおわかりになるんでしょうね。
橘 会場で、本好きの友達ができるといいな、とも思ったんですよね。出会いも段取りたいな、と。
――ふだんアーティストとして前に出る時とどんな違いがありますか?
橘 三浦さんと幅さんの声もほしかったし、会場の声もほしかったので、今日はあまりしゃべらず、引き出す側のイメージでいました。三浦さんにも絶妙なコメントをところどころでいれていただいて。意外にもシモネタをたくさん言ってくださって、うれしかったです(笑)。
三浦 そう言っていただけてよかったです(笑)。ありがとうございます。
橘 僕も本当はもっと言いたかったです(笑)。作家の方に会うのは、緊張するんですよ。あんなにすごい小説を書いていることにリスペクトがあるので、ハイタッチで「イエー!」から入るわけにもいきませんし。
三浦 (笑)
橘 でも今日、三浦さんと最初に控室でお会いした時に、スカジャンを着ていらして。しかもその理由が、もともと三浦さんが『HiGH&LOW』(※橘さんらLDHのアーティストが出演するドラマ・映画シリーズ)を好きでいてくださって、それにちなんでのスカジャンだと聞いてうれしくて。
三浦 ついコスプレを(笑)。
橘 一気に話しやすくなりました。
――参加者の方からの意見で、特に印象に残っているものはありますか?
橘 セクシャルマイノリティの方が勇気をもって発言してくださったのが、すごくありがたかったですね。いろんな切り口で本に深く迫っていける会になるのではないかなとあらためて思いました。
三浦 取り上げる本によって、考え方の違いがより明確になることもあると思うので、さらに深く、おもしろくなっていくかもしれないですね。みなさんが、自分の今やっていらっしゃることに真剣に取り組んでいるのが感じられるお話がとても多かったのが印象的でした。毎日を誠実に生きていらっしゃるんだな、というのが伝わってくる方たちばかりでしたね。
――自分の毎日に照らし合わせて読んでいる方がとても多かったですね。
三浦 『ダ・ヴィンチ』で橘さんが『ののはな通信』について感想を語ってくださったのを読んだ時もそう思ったんですよ。自分とかけ離れた世界を描いた創作物に接すると、「いやだ」とか「わからない」とか思う人もいるけれど、橘さんは自分の気持ちや経験に引き寄せて想像しながら読んでくださっていて。それがすごくありがたかった。たぶん何に対してもこういうふうに接していらっしゃるんだなと感じました。それと同じ姿勢を、今日いらしているみなさんにも感じて。橘さんを好きになるのは、やはり同じ姿勢の方なんだなと。
橘 ファンの方というのは、自分たちの鏡だなと思うことが多いんです。若いメンバーのファンの方はもうちょっとはっちゃけていたりするんですが(笑)、僕のことを応援してくれる方は、大人っぽい方が多くて。これまでファンの方と接してきてなんとなくそれがわかっていたので、今日のようなイベントもきっと理解してくれるし、うまくいくのでは、と思っていました。
三浦 なるほど、そうだったんですね。
――第2回、第3回の「読後会」が楽しみです。
橘 はい! また切り口を変えて、やりたいですね。
三浦 私、EXILE mobileの会員なので、応募します……!
橘 客席に三浦さんがいらっしゃるってことですか? それはすごい(笑)!
橘ケンチ
たちばな・けんち●9月28日神奈川県生まれ。2007年、二代目J Soul Brothersのメンバーに抜擢。2009年EXILEにパフォーマーとして加入、2012年からはEXILE THE SECONDとしても活動を開始。舞台やドラマに多く出演するなど、役者としても活躍している。読書家として知られ、英語、北京語も堪能。
三浦しをん
みうら・しをん●1976年東京都生まれ。2000年『格闘する者に○』でデビュー。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、『舟を編む』で本屋大賞を受賞。この2作ほか『風が強く吹いている』『神去なあなあ日常』も映像化されている。植物の研究に懸ける人々を描いた最新小説『愛なき世界』も好調。
幅 允孝
はば・よしたか●ブックディレクター。1976年愛知県生まれ。青山ブックセンター六本木店勤務などを経て、2005年、選書集団BACH(バッハ)を設立。各都市の図書館、書店などの選書を行うほか、イベントや展覧会のディレクションを行うなど、幅広く本に関わる仕事を手掛けている。
取材・文:門倉紫麻 写真:内海裕之