『ビブリア古書堂』『珈琲店タレーラン』…今“コージーミステリー”が女性に人気

文芸・カルチャー

2012/10/26

 無名の新人・岡崎琢磨の『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(宝島社)が40万部を突破する異例の大ヒットとなっている模様。この作品は第10回「このミステリーがすごい!」大賞で最終候補に残るも受賞には至らなかったものの、編集部推薦の“隠し玉”として発売された。

気になるストーリーは、「タレーラン」という喫茶店で働く女性バリスタ・切間美星が、そこを訪れるお客さんにまつわる日常の謎を鮮やかに解き明かしていくというもの。さらに、フランスの貴族で政治家のシャルル・モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールが残した「良いコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い」という言葉に魅せられ、その理想にピッタリのコーヒーを探し求める青年・アオヤマも登場する。彼が偶然見つけた「タレーラン」で探し求めていた理想の味に出会い、常連になるのだ。

このあらすじを読んだだけで、本屋大賞にもノミネートされた「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ(三上 延/アスキーメディアワークス)を思い浮かべる人も多いだろう。実際、パッケージの雰囲気も似ており、設定も「鎌倉の古本屋」を舞台にした「ビブリア古書堂」シリーズと、「京都の喫茶店」を舞台にした『珈琲店タレーランの事件簿』はネットでもよく比較されている。なかには並べて売られている書店もあるほどだ。確かに、店主の女性が謎を解き、お客だった男性がその女性に惹かれているところなど共通点は多い。こうした喫茶店や古本屋といった日常的な場面で起こる謎を素人が解き明かす作品を、欧米では“コージー・ミステリー”と呼ぶそう。「コージー(cozy)」とは「居心地の良い」という意味で、シリアスな本格的なミステリーより気軽に楽しめ、とくに女性に人気らしい。日本でも近藤史恵の『タルト・タタンの夢』(東京創元社)などもそうだが、今後ますます人気のジャンルになっていくかもしれない。

珈琲店タレーランの事件簿』は、しっとりした雰囲気の「ビブリア古書堂」シリーズより、明るくさらにライトな作品になっている。そして、当然ながらコーヒーに関するうんちくに加え、京都の人なら風景まで思い浮かべることができるような地名や描写も盛りだくさん。おまけにラストには大どんでん返しが待っているので、よりラノベに近い感じもあり誰もが気軽に楽しめるのもポイントだ。

そんな注目の『珈琲店タレーランの事件簿』では京都の喫茶店を舞台にしているが、モデルとなったお店は明かされていない。でも、こんな隠れ家的な雰囲気の喫茶店があれば、ぜひ行ってみたいと思うはず!

また作中には、「京都市役所の建物の裏を西進し、適当なところで右に曲がってなおも三条京阪駅から遠ざかる」という文章が出てくる。ここから推測すると、お店の位置や外観の雰囲気からまず「Café Bibliotic Hello!」が浮かび上がる。日本家屋で入口はレンガ造り、バナナの木が目印のこのお店は、店内にたくさんの本が並ぶブックカフェ。街中とは思えない空間が広がっているという点でも似ている。しかし、年季の入った内装はむしろ三条河原町にある「六曜社」や、東山の「カフェ ヴィオロン」に近いかもしれない。アニメの聖地巡礼ではないが、こんなふうに京都の街中を散策しながら自分にとっての「タレーラン」を探してみるのも楽しいのではないだろうか。