『もしドラ』著者&編集者とニコニコ『ブロマガ』発起人が本音対決!

文芸・カルチャー

2012/10/25

 「まもなく」と予告が表示されてから約4カ月。10月24日に突然アマゾンがKindleの日本における端末発売とストアのオープンを発表した。その直前にはAppleがiPad miniとiBooksのEPUB3対応(日本語縦組み対応)を発表しており、GoogleのNexus7とあわせ7インチを中心とした海外勢の主力電子書籍端末とサービスが出揃った格好だ。

偶然だがその夜、ニコニコ生放送でcakes(ケイクス)ブロマガの仕掛け人が顔を揃える対談が催された。『もしドラ』の作者として知られる“ハックル”こと岩崎夏海氏のブロマガ有料チャンネル『岩崎夏海のハックルテレビ特別篇』という企画で、番組の前半は無料、全編の視聴は有料という体裁が取られた。

電子ナビでもインタビューを行ったcakes代表の加藤貞顕氏と、ブロマガを立ち上げたドワンゴ会長の川上量生氏が、岩崎氏の司会進行のもと、互いのサービスの相違点や電子書籍の今後などについて本音で意見を交換。ここではその概要をレポートしたい。

■プラットフォームが市場の主導権を握るということ

川上氏は、アマゾンやAppleのようないわゆる「プラットフォーマー」が、電子書籍をはじめとしたコンテンツ市場の主導権を握ると「価格のダンピングや、実質的な料率の引き上げに向かっていく」と指摘する。

その理由を川上氏は次のように説明する。デジタル販売の世界では、リアルな売り場と比較すると、デバイスの特性上「陳列」できるスペースが限られてしまう。ダイヤモンド社で『もしドラ』をヒットさせた加藤氏も、「たしかにApp Storeでは上位5位以内に入らなければ厳しかった」と当時を振り返る。

そこで出版社などコンテンツホルダーは、プラットフォームが用意する広告を買ったり、あるいはダンピングを行って、なんとかランキング上位を確保しようとする。価格を下げるためにもコンテンツのボリュームをコンパクトにして制作費をさげるということも行われてきた。結果として、一見紙の本に比べて優位に見えるデジタルプラットフォームにおける料率も、こういったコストを考えると見た目よりも不利になっている可能性は高いという訳だ。

川上氏は「プラットフォームにとっては、コンテンツホルダーの利潤の重要度は高いとは言えない。(プラットフォーム間の競争もある中)むしろディスカウントされたコンテンツが揃っている方がプロモーションになるため、その方向に誘導しがち」と指摘。その点、ゲームの世界での任天堂はプラットフォームでありながら、自らコンテンツ(ゲームタイトル)を制作していることが、価格が適正に保たれている要因だという。

「いずれその先にはプラットフォーマー、コンテンツホルダー双方の疲弊がまっている」と岩崎氏。それを嫌って出版社が書籍タイトルの出し惜しみをした結果、各電子書店の品揃えが貧弱になり、消費者にとっての魅力が薄くなってしまっているという。

■電子書籍だけでは厳しい

加藤氏は「電子書籍が売れないのは、読みやすさやネットとの親和性で、すでにあるネットコンテンツに負けているから」と断言する。川上氏はそこで、雑誌における定期購読のようにネットコンテンツのサブスクリプションモデル(定額購読モデル)の定着が重要という。岩崎氏は「毎朝新聞を開くのと同じように、購読の習慣を作っていくべき」と応じた。

cakesを手がける加藤氏、ブロマガを統括する川上氏に共通するのは、「電子書籍というパッケージ」だけでは出版業界の将来は厳しいという認識だ。スマホやタブレットなどで読むには、コンテンツのボリュームが多すぎ、雑誌についても「週刊や月刊という単位ではネットの速報性に勝てない」と川上氏は指摘する。

一方で、従来の有料メルマガにも限界を感じていたのは加藤氏だ。「毎週、有料でメルマガを書いて成立する書き手は、おそらく100人くらいしかいないだろう。そこから生まれてくる市場は大きなものではない。それを拡げるためにcakesをスタートさせた」と加藤氏。コンパクトな方向に向かうコンテンツを個別に販売するのではなく、まとめて購入できるようにして、新たな可能性を広げたかったという訳だ。

ブロマガで連載を続ける岩崎氏もそんな変化を前向きに捉えているという。「コンテンツがコンパクトになっていくのは必然。そしてそれはクリエイターにも変化を与え、コンテンツの“変容”がうまれる。かえって面白いものになる余地も」と岩崎氏は語る。

■ケイクス・ブロマガが描く“交点”

今回司会を務めた岩崎氏だが、ブロマガでの人気ランキングが上昇中で現在21位につけている。「『もしドラ』で共に成功を収めた加藤氏のcakesがなぜ岩崎氏を開設当初から招かなかったのか」と川上氏。実は、川上氏はイベント前日に以下のようなブログエントリーをブロガーkawango名義で用意していた。

「ケイクス加藤さんに訊ねてほしいハックルさんのこと」(続・はてなポイント3万を使い切るまで死なない日記)

これに対し加藤氏は、「安直な続編は作りたくなかった」と本音を告白。新しいアイディアに至れば、ぜひ岩崎氏にも執筆を依頼するつもりだと明かした。「ブロマガで5年~10年は走り続けたい」と岩崎氏は述べるが、2人のタッグが再びcakesで見られる日も来るかもしれない。

また、「有料メルマガの将来像として、それらがパッケージングされた雑誌のようなサイトが出てくるとは予想していたが、すごく早かった」とcakesを表した川上氏は、「cakesがブロマガのチャンネルとして参加するという選択もあるのでは」と加藤氏に水を向ける。

一見、競合にも見える2つのサービスだが、問題意識は非常に近いものでありながら、そのアプローチは異なっており、『もしドラ』出版にまつわる裏話も交えつつ、岩崎氏の軽妙かつユニークな司会進行も相まって、対談は終始和やかな雰囲気で行われた。

前述の通り、当日の模様は一部有料であるが、ニコニコ生放送からタイムシフトで視聴可能。電子書籍そして有料コンテンツ販売について多くの示唆に富んだ内容にもなっており、この分野に関心のある方はぜひチェックしていただきたい。

岩崎夏海のハックルテレビ特別編~ネットとクリエイターの本音と裏側 (ニコニコ生放送)

取材・文=まつもとあつし