「広島の天津飯はなぜにあんなにあんが多い?」ご当地中華を巡る、ありそうでなかった「中華屋」探求本

マンガ

更新日:2022/7/12

いつか中華屋でチャーハンを
いつか中華屋でチャーハンを』(増田薫/スタンド・ブックス)

 この数年、“町中華”というワードがグルメ界で静かなブームを巻き起こしている。安く、おいしく、ボリューム満点、そして居心地のいい“町の中華料理屋さん”こと“町中華”。このジャンルに関する本が増えてきているが、本書『いつか中華屋でチャーハンを』(増田薫/スタンド・ブックス)の着眼点は独特だ。

 著者が中華屋にのめり込むようになったきっかけは、知人から「中華屋のカレーが気になるから食べてきてよ」と言われたことだった。そこから本来の定番メニューであるラーメンやチャーハンではなく、カレーにオムライスといった非定番メニューに心を奪われ、やがて日本各地のご当地中華を巡るようになる。

 ラーメンとうどんが合体した中華うどん、トンカツを中華風あんでとじた大阪のカツ丼、広島のあんかけたっぷり天津飯など、登場する料理はいずれも魅惑的だ。

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いつか中華屋でチャーハンを p.41

いつか中華屋でチャーハンを p.42

 極度にシンプルな線で描かれる人物たちとは対照的に、料理の絵は執拗なほど細かく精緻。そのギャップがおかしみを生んでいるのだが、著者の増田薫さんは美大出身のデザイナー兼イラストレーターであり、8人組ソウルバンド「思い出野郎Aチーム」サックス担当というミュージシャンの顔も持つ多才な人物だ。

 ネットで気になる店をしらみつぶしに調べあげ、自身が住む東京をはじめライブツアーで訪れた街や、ときには興味を抱いたご当地中華のある土地へ夜行バスで遠征。自らの足と胃袋と財布(連載途中までは自腹だったそう!)を使ってさまざまな中華料理と出会い、多くの発見をする。

 広島の天津飯は、なぜにあんなにあんが多いのか? あんの重さで麺がちぎれる福岡名物「ダル麺」は、どのようにして生まれたのか? 神戸ではどうして「牛バラ煮込み」を「シチュー」と呼ぶのか?

 地元の人からすれば当たり前のものである料理が、実はとても珍しく、よそにはないものであることも多い。そんな料理の数々を著者は新鮮な驚きとともに紹介する。

 フィールドワークさながらに取材を重ねる姿と、各地の中華の発展について真摯に、謙虚に考察する文章。著者のそうした姿勢が、この本を“おいしいお店訪問記”にとどまらせず、一種のルポルタージュへと押し上げてもいる。

いつか中華屋でチャーハンを p.95

いつか中華屋でチャーハンを p.96

 一方で、お弁当のおかずにしてもおいしい冷凍餃子を見極めるため、各チェーン店の冷凍餃子を食べ比べたり、チェーン展開するラーメン店にも取材したりと、個人店とチェーン店それぞれのよさを伝えている。

 2022年7月1日に下北沢にて行われたトークショーは、本書の発売から1年半越しの出版記念イベントにもかかわらず大盛況。現在、どこでも地元メディア『ジモコロ』で連載中の2ndシーズンについて著者は、

「本場の中華料理と、日本式にアレンジされた日式中華のちがいをもっと書いていきたい」
「シーズン1では取り上げられなかった東北地方も今後、調査したいです」

 と意欲を語った。定番から一歩外れたようでいて、実は非常にまっとう&王道な中華屋探求本だ。読んだらきっと中華屋を見る目が変わってくるだろう。

文=皆川ちか

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