なぜ独裁者プーチンは暴挙に走ったか? 池上彰がウクライナ戦争を徹底解説!

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公開日:2022/9/9

独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層
独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(池上彰/文藝春秋)

 今もなお戦禍が続くウクライナ。21世紀の今、まさかこんな戦争が起きるとは――多くの人が信じられない思いでこの悲惨な現実を見守っているが、池上彰氏が緊急出版した『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋)によれば、世界はこうした悲劇をある程度予知していた可能性がある。

 本書はこれまで池上氏が『週刊文春』に連載してきたコラムの中から、2014年から2022年までにロシアやウクライナ、中国について取り上げたものを再編、加筆修正してまとめたという一冊。これを読むと、このロシアの蛮行がなぜ起きてしまったのか、それに世界(特に欧米諸国)がどう対応してきたのか、著者ならではの明晰なわかりやすい語り口でその輪郭が俯瞰的に見えてくる。

 本書によれば、ロシア、というかプーチンの危険性はかなり以前から警戒されており、各国はそれぞれの立場でさまざまに対応してきたことがわかる。こうした複雑な事情はニュースでも報道されてはいるが、あまりの情報量の多さに整理が追いつかない人もいることだろう。そんな人も本書を読めば、状況の理解が格段に進むはずだ。

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 第1章は「2022世界を驚かせたプーチンの暴挙 2022」。今年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻直前の時期(2月初旬)から侵攻後の状況(4月)という最も切迫した時期に記されたブロックは、ウクライナという国のあらましからはじまり、今回の侵攻にいたった経緯、戦争の状況などを多角的に解説・分析していく。

 続く第2章は少し時間を巻き戻し「2014~2021すべてはクリミア併合から始まった 2014~2021」。2014年2月のロシアのクリミア半島編入以降、折に触れ池上氏がウォッチしてきたロシアの不穏な動き、それをめぐる欧米情勢を振り返る。プーチン指示による反政府系人物らの暗殺やイスラム諸国との関係、トランプ元米大統領との謎の蜜月、北方領土問題など、単発では理解しにくかったさまざまなニュースが、今読み返すことでなにやらひとつにつながっていくのが不気味だ。

 さらに第3章は「独裁者・習近平にどう対峙すべきか 2016~2021」。なぜここで中国(?)と思うかもしれないが、急成長した大国・中国のトップである習近平がいかにのしあがったのかを知るのはプーチンという人物を考える上でもヒント大。さらには香港・台湾など日本にも大いに関係のある内容にも言及されており、本書の構成上、自然に今回の戦争と並列して捉え直すことにもなって国際情勢のシビアさが身にしみる。

 元が週刊誌連載のため、ひとつひとつの文章はタイムリーな事実を前後関係とともにわかりやすく伝えくれるのが特徴だが、こうして一冊つなげて読むことでより大きな「背景」として理解できるのが実に興味深い(というかコワイ)。巻末にはブックガイドもあるので、より深く知りたい人はそれをヒントにするといいだろう。いずれにせよロシアと中国は、海を隔てているとはいえ日本と国境を接する隣国同士である。むやみに怖がるのも問題だが、そろそろ私たち一人一人が今後のことを真剣に考えていったほうがよさそうだ。本書で現実を把握することはそのための一助になるに違いない。

文=荒井理恵

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