「できなくて当たり前」がんばりすぎてしんどい大人を、ちょっとラクにしてくれる子育てエッセイ

暮らし

公開日:2022/9/30

大人になってもできないことだらけです
大人になってもできないことだらけです』(きしもとたかひろ/KADOKAWA)

 仕事や家事・育児に前向きに取り組めないことや、できない自分を責めてしまう瞬間は誰にでもあるだろう。本好きなら、ノウハウ本に助けを求めたり、そのジャンルのエッセイを読んだりして自分を元気づけようとするかもしれない。しかし本当につらいときは、「なんとかなるさ」的なメッセージさえも、自分を責めるプレッシャーになる。難しくてやることが多い育児に携わる人は特に、そう感じる人が多いのではないだろうか。

 本書『大人になってもできないことだらけです』(KADOKAWA)の著者は、小学生が通う学童の支援員として働きつつ、SNSやウェブメディアで子どもへの支援について発信してきた、きしもとたかひろ氏。本書は、子どもとのエピソードや、日々の暮らしで気付いた大切なものについて綴ったエッセイ集だ。

大人になってもできないことだらけです

 きしもと氏の前作『怒りたくて怒ってるわけちゃうのになぁ 子どもも大人もしんどくない子育て』(KADOKAWA)は、支援員としての仕事の中で実践している「ぼくが気をつけたいこと」をまとめたコミックエッセイ。彼自身、迷いながら子どもと向き合う日々と、子どもも自分も笑顔でいるための子育てについて伝え、主に子育て中の読者の大きな共感を得た。それに続く本書は、支援員としての日々を中心にしつつも、子育てに限らない「しんどくない生き方」を綴っている。

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 子育てのヒントが中心だった前作と比べて本書は、文章によるエッセイで、自身のことや、著者の思考の流れが丁寧に書かれている。忘れ物が多く片付けが苦手な著者のエピソードや、子どもとの日々で常に悩み、子どもを傷付けてしまった失敗を後悔し、考え、前に進む著者の葛藤が描かれる。大人も失敗するのは当たり前、試行錯誤しながら子どもと向き合えばそれでいいというメッセージを、著者が身をもって伝えてくれるから心に響く。

大人になってもできないことだらけです

 保育の専門知識に裏付けされた子育てのヒントを、身近な言葉で伝えることで自分事に感じさせてくれるのも、このエッセイの特徴だ。たとえば大人は、「ゲームより読書」というように、役に立つかという判断基準を子どもに押し付けてしまいがちだが、途中でやめても、うまくいかなくても、楽しむことで子どもの成長の土台となる非認知能力が育つという。それを著者は、何の役にも立たない時間を親子で楽しんでみよう、と言い換える。ただ笑いあった日々は10年後の生きる力になっている、というメッセージは、「子どもの成長のために」という思いでがんじがらめになっている親を救うだろう。

大人になってもできないことだらけです

 子育てや保育に関わる人以外もラクにしてくれるのも本書の魅力。たとえば、「たからくじがあたらなくても」のエピソードは、反省ばかりの満たされない日々を見直すきっかけになる。制限の多いコロナ禍ではなおさら、常に「もっとできたのに」と考えてしまうが、私たちはその環境で出せる最高点を出している。雨なら雨、晴れなら晴れで、その日にできることをすればいいと著者は言う。

 本書を読んだ日からすぐに子どもの声かけに成功するとか、気持ちが一新するとか、そういう進歩はないかもしれない。しかし「できなくてもいい」という著者の言葉は、自分を縛るルールや価値観から読者を解放し、「ちょっとラクになる」という得がたい変化を与えてくれるはずだ。

 きしもと氏は、うまくいかないこと自体も、無理に修正することなく「それでいいじゃない」と許す。自分を変えようとする必要はなく、今よりラクになることで、少しずつ良い方向に変わっていくと気付かせてくれる。子育て中の人だけでなく、しんどさを感じる大人にひとりでも多く読んでほしい1冊だ。

文=川辺美希

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