不条理系怪作漫画と名高い『ねじ式』は悪夢なのか?

マンガ

更新日:2022/11/4

ねじ式
ねじ式』(つげ義春/小学館)

 背伸びをしたかった学生時代にサブカルや古典名作にハマり、不条理系怪作漫画と名高い『ねじ式』(つげ義春/小学館)を知った。初読では、「確かに不条理だ。意味がわからない」というだけの感想。意味がわからないから奥深い…そんな浅い理解しか得られなかった。

 初読から20年以上が経ち、それなりに本を読み映画を観てきた立場から、あらためて『ねじ式』に向き合いたい、と思い立った。本作は、1968年6月刊行の伝説的漫画雑誌『月刊漫画ガロ』の増刊号で発表された、わずか22ページの短編だ。多くの根強いファンに支持されている。

『ねじ式』の内容を簡単に紹介すると、メメクラゲなるものに噛まれて左腕の静脈を切断された主人公が、出血多量で死ぬ前に、切断された血管を右手で繋ぎつつ、医者を探し求める物語だ。道中では、狭い村道を蒸気機関車が走ったり、金太郎アメにまつわる奇妙なコメディがあったりと、脈絡のないストーリーが展開される。

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 本作を再読してあらためて気づいたことは、これが夢のようである、ということだ。皆さんは睡眠中に夢を見て、目覚めてトイレに行ったり、起きたてだったりするときに、「ああなんて素敵な夢を見たんだろう」「とても怖い夢だった」と細部まで覚えていることがあるだろう。人によっては、色、におい、味、声や音、温かさや冷たさまで覚えているかもしれない。しかし、夢を忘れまいとしても、時間が経つと忘れてしまう。

 クリエイターは、夢日記をつけてネタ帳にすることがある。夢を忘れる前に記しておくのだ。覚醒状態で思いつく奇抜なアイディアを数倍超える、まるで自分で思いついたのではないような素晴らしいネタを拾えることがある。ところで、この夢日記を見返してみると、ワンシーンごとのインパクトはあるものの、ひとつの夢自体のストーリーとしては繋がりに整合性がなく、辻褄が合わない、ということが多々ある。まさに『ねじ式』を読んで得られる先の読めないスリリングさや一種の浮遊感は、これにあるのではないか、と考えた。作者である、つげ義春の夢日記。作者によって意図的にメッセージが隠されたのではなく、もしかしたらつげ義春自身も気づいていない深層心理が、本作には埋まっているのかもしれない。

 …なんて、やはり20年経っても浅い考察しかできないため、鋭い解説は本作のディープなファンに譲りたい。読む人によって、また同じ人でも人生の経験によっていくらでも解釈が変わる本作。いろいろな体験ができるはず。初読、あるいは再読をお勧めしたい。

文=ルートつつみ (@root223

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