忘れがたい読後感! ツンデレ呪術師とお人好し少将が怪異に立ち向かう、ダークな後味が冴える平安あやかし譚

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/6

呪われ少将の交遊録
呪われ少将の交遊録』(相田美紅/ポプラ社)

 大人気ジャンルである“あやかしもの”に、印象的な新作が登場した。第11回ポプラ社小説新人賞奨励賞を受賞した相田美紅氏の『呪われ少将の交遊録』(ポプラ社)は、凄腕呪術師と「呪われ少将」と称される青年が繰り広げる、平安あやかし譚。あやかしと人間の因縁を描き、人間の心に潜む欲望をもあぶり出す物語は、独特のほの暗さや切ないストーリーが魅力となっている。キャラクター小説やあやかしものの醍醐味を盛り込みながらも、ほっこり路線とは一線を画すダークな作風が、忘れがたい読後感を残す作品だ。

 衛門府に勤める清川尚成(きよかわのたかなり)は、お人好しで真面目な好青年。子どもの頃から病弱だった尚成は、山で迷子になって以来、人が変わったように健康になったという過去をもつ。そんな尚成に右近衛府の少将への昇進話が持ち上がり、さらには美しい鶴姫との結婚も決まった。自身に訪れた幸運に喜ぶ尚成だったが、周囲では物の怪が引き起こしたと思われる異変が続き、果てには婚礼の夜に鶴姫が祟り殺されたような無惨な死を遂げてしまう。

 心を病んだ尚成は忽然と姿を消し、見かねた大叔母は彼を救おうと、都一の腕を誇る呪術師・福治に助けを求めた。凄腕だが依頼を引き受けるかは気分次第として有名な福治は、当初こそすげなく仕事を断るものの、とある理由から態度を翻し尚成を見つけ出す。この出会いをきっかけに、以後「呪われ少将」と呼ばれるようになった尚成は、福治を巻き込みながら、さまざまな怪異事件に関わっていくのであった――。

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『呪われ少将の交遊録』は、「水晶」「金華の夜」「真澄鏡」という3編で構成されており、いずれの事件でもあやかしの存在が鍵となる。「水晶」では尚成の身に降り掛かった怪異を通じて、尚成の友人たちが秘めていた思いがけない一面が暴かれていく。続く「金華の夜」では、流行り病で顔に大きな痣ができた心優しい娘の身に起きた異変を通じて、ある家族が抱える哀しい内情が浮き彫りとなる。そして最後の「真澄鏡」では、見る者の欲望を幻想として映し出す魔鏡の存在が、謎めいた福治の正体や過ぎ去りし日の恋情をあぶり出していく。

 いずれの事件も苦々しさを残した結末を迎えるが、そう感じてしまうのも、人間の感覚で事件を捉えているからなのかもしれない。とある事件の中で福治は尚成に対して、「化生の者を、人間(おまえ)の物差しで測るなよ」と言い放つ。この言葉こそ、本作の核心を突いた台詞だと思えてならない。福治の過去に踏み込んだ「真澄鏡」では、彼がその台詞を発するに至った経緯が明かされ、尚成が知らなかった福治との縁についても明らかになっていく。福治にとって、尚成は厄介事を持ち込む迷惑な存在だったが、この章では尚成が福治の心を救おうと奮闘する姿を見せるのだ。

 クールなツンデレ呪術師と、どこまでもお人好しの少将。2人が見せる軽快なやり取りと、平安の闇に潜むあやかしをモチーフにしたストーリーが切なく胸に迫る作品である。

文=嵯峨景子

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