山田邦子からAマッソ・加納、納言・薄幸まで! 圧倒的男社会で女芸人は、どう戦ってきたのか? 10人が告白する『女芸人の壁』

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/5

女芸人の壁
女芸人の壁』(西澤千央/文藝春秋)

 あるバラエティ番組に出演した女芸人が、突然泣き出したのを見たことがある。10人の芸人が互いを笑わせ合うその番組で、彼女は唯一の女性。男性陣の輪になかなか入れず、歯がゆい思いをしていたようだ。「男社会だなぁって」──涙ながらのひと言に笑いは起きたが、体の奥から絞り出したような言葉はしみじみ胸にこたえた。下ネタと裸芸のホモソーシャルなノリからははじき出され、何をしても「女じゃ笑えない」と言われる。“芸人”の前に、まず“女”という属性でジャッジされてしまう。彼女たちの前にそびえる壁は、どれほど高いのだろうか。そこに同じく女である自分を重ね、やるせなくなった。

女芸人の壁』(西澤千央/文藝春秋)はその名のとおり、女芸人たちが目の前の壁とどう向き合ってきたかを明かすインタビュー集だ。登場するのは、山田邦子さん、清水ミチコさん、中島知子さん、青木さやかさん、ホルスタイン・モリ夫さん、鳥居みゆきさん、日本エレキテル連合、Aマッソ・加納愛子さん、納言・薄幸さんの10名。「文春オンライン」に掲載されたインタビューに加え、「上沼恵美子論」などの書き下ろしコラム、Aマッソ・加納さんと著者である西澤千央さんの特別対談も収録されている。

 1980年代から2020年代と活躍した時代も違えば、芸風も違う女芸人たち。だが、誰もが「女芸人としてどうやって居場所を作るか」という孤独な戦いに挑んできた闘士だ。鈍感力を発揮し、いじめもプレッシャーもあっけらかんと無効化してきた山田邦子さん。尻も陰毛も出す“男の笑い”で人気を得るも、苛烈な嫌がらせに心が折れて北海道に帰ったモリ夫さん。女芸人という枠を「時代錯誤もいいとこですよ」と突っぱね、テレビを離れて単独ライブで自分の笑いを表現し続ける鳥居みゆきさん。“やさぐれ”という防具で女性性を覆い、男社会を泳ぎわたる薄幸さん。テレビ史の裏側で孤軍奮闘してきた彼女たちの、むきだしの言葉に圧倒される。

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 一人ひとり戦い方は違うため、「この時代はこうだった」と乱暴にくくることはできない。それでも各世代を代表する女芸人の言葉から、時代の変遷とともに彼女たちの立ち位置がどう変わってきたのかが見えてくる。それは、社会における女性のポジションの移り変わりともリンクしているかのようだ。

 中でも、希望を感じさせてくれるのがAマッソ・加納さんの言葉だ。長年、自分たちが面白いと思うネタを劇場でやり続けてきた加納さんは、一緒に舞台を踏める女芸人が増えたことを喜ばしく思っているそう。5年前に比べると多様性が認められ、チャンスも増えたと語る。そのうえで、「同世代、同性で何かやりたいというのは、一個の目標」だと連帯を訴える。

 女芸人は特に、デビューが早かったり、テレビで売れるっていうのが多いじゃないですか。劇場で勝っていくとかじゃなくて。だから、やっぱり孤独そうやなって思うことが多い。
 今の女芸人は劇場も出てるし、横のつながりもある。他の人はどう思ってるか知らないですけど、私はわりと仲間意識っていうか、みんなで頑張っていこうって思えるから、あんまり「自分だけが」とは思わないのかもしれないです。

 孤独に戦ってきた女芸人が連帯し、女性という属性は“壁”ではなくよりどころになるかもしれない。加納さんのように自ら声を上げる女芸人がいることは、一般女性にとっても実に頼もしい。

私は……女芸人が女芸人にもっと興味を持ってほしいなと思います。対象が女芸人じゃなくてもいいです、女芸人が女のおもろさをもっと知ってほしい。

 そう、女は面白い。そして、もっともっと面白くなれる。今は、先人たちが切り拓いてきた道を踏み固めている途中。少しずつ道を延伸していけば、新しい景色が見えるかもしれない。女芸人たちの言葉をたどりながら、そんな未来に思いを馳せた。

文=野本由起

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