人気者の女の子と同じ日に死ぬとしたら…友達のいない“僕”と彼女の運命は? 涙なしには読めない「よめぼく」シリーズ第3弾!

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/7

余命88日の僕が、同じ日に死ぬ君と出会った話
余命88日の僕が、同じ日に死ぬ君と出会った話』(森田碧/ポプラ社)

 人生という限られた時間を1日1日懸命に生きられればと思うが、それがなかなか難しい。ときに何かにつまずくと、自分の人生になんて何の意味もないように思え、自分の人生を諦めたくなる。だが、もし、そんな人間が自分の余命を知ったらどうだろう。それも自分のクラスメイトも同じ日に死ぬことが運命づけられていたと知ったら……。

余命88日の僕が、同じ日に死ぬ君と出会った話』(森田碧/ポプラ社)はそんな、自分の人生に見切りをつけていた男子高校生の物語だ。クラスメイトの女の子が同じ日に死ぬと分かった時、彼は一体どうするのか。『余命99日の僕が、死の見える君と出会った話』(ポプラ社)、『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』(ポプラ社)で知られる森田碧による「よめぼく」シリーズ第3弾であるこのラブストーリーは、他の作品同様、涙なしに読むことができない。

 主人公は高校2年生の崎本光。彼はちょっとした好奇心から、予言的中率100%と言われる“死神”のSNSにクラスの集合写真を送り、自分とクラスメイトの浅海莉奈の余命がともに88日であることを知る。普段関わりのない莉奈と崎本がどうして同じ日に死ぬことになるのか。疑問に思う崎本だが、偶然か運命か、ふたりは課外学習で3日間、水族館の職場体験に行くことになる。

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「有名な話だから知ってるかもしれないけど、クラゲって死んだら水に溶けて消えるんだ。体の大半が水分でできてるから死ぬと細胞の結合が崩れて溶解するんだけど、ちょっと羨ましいなって思う。俺も自分が死んだらそうなりたいってずっと思ってた」

「……でもそれってさ、すごく寂しいことだと思う。誰にも気づかれずに溶けて死んじゃうなんて、私は嫌だな。自分が生きた足跡はちゃんと残したいし、自分がいなかったことになんてしたくない」

 莉奈と崎本は本当に対照的だ。莉奈はクラスの人気者。何をするにしても一生懸命で、ただそこにいるだけでその場の空気が明るくなるような魅力的な女の子だ。一方で、崎本には友達がほとんどいない。子ども時代のあるトラウマから、自分の人生を諦めている。だからこそ、余命を知っても絶望することはなかった。いずれ死ぬことになるのならば、早く死ねる方が良いとさえ思っていた。崎本は、最初は、職場体験中、終始ノンストップで崎本に話しかけ続ける莉奈を疎ましく思っていたはずだった。だが、莉奈と関われば関わるほど、崎本は彼女に惹かれていく。そして、誰よりも明るい莉奈がある秘密をかかえていることに気づいた時、彼はひどく動揺するのだ。

 莉奈と関わる中で、どうにか彼女の運命だけでも変えられないかと足掻き始める崎本。その変化はなんと微笑ましく、なんと切ないことか。本当に、この世界に運命なんてものがあるのだろうか。死ぬと言われたその日に待ち受ける出来事を、どうにか回避できないものなのか。崎本の葛藤に、どうか、ふたりを待ち受ける運命が変化してほしいと願わずにはいられない。

 崎本と莉奈の物語に触れれば触れるほど、自分の人生を思い、大切な人の人生を思う。何となく過ごしている私たちの毎日は、別れの時へのカウントダウンでもある。そうであるならば、今、この時に何をすべきだろうか。どうすれば、別れの時、この世に悔いを残さずに済むだろうか。あなたも、このラブストーリーを読めば、自分に残された人生の時間をもっともっと大切にしたいと思える。かけがえのない人との時間を愛おしく思えるこの物語はあなたの心にも響き渡るに違いないだろう。

文=アサトーミナミ

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